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[55] 貧困パンデミック下の五輪は今からでも中止を――支援現場に深刻な影響

民の命を軽んじ犠牲を強いる「五輪ファースト」 この国はどこへ向かうのか

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

拡大無観客で開かれた東京五輪の開会式。花火が緊急事態宣言下の東京の街を照らした=2021年7月23日午後11時49分、東京・国立競技場、朝日新聞社ヘリから

国力の全てを感染症対策と貧困対策に

 多くの人々の反対にもかかわらず、東京五輪が強行開催され、7月23日に開会式が行われた。

 5月6日、参議院厚生労働委員会で、コロナ禍における貧困対策に関する参考人として意見陳述をおこなった私は、福島みずほ議員から五輪開催の是非に関して質問された際、「地震にたとえるなら、今まさに本震よりも大きな余震が来ている状況。災害の真っ最中に大規模スポーツイベントをやる国というのがどこにあるのか、理解に苦しむ」と述べた上で、「今は、国力の全てを感染症対策と貧困対策に振り向けるべき時だ」と強調した。

 また、五輪開催が強行されると感染がさらに拡大して多くの人命が失われ、コロナ禍のさらなる長期化により、雇用の回復が遅れ、貧困により死へと追い込まれる人たちも増加する事態が想定されるとも指摘。そうした事態が生じた場合、「一体、誰が責任を取るのかということを是非、この国会で議論してほしい」と、国会議員に要請した。

 五輪の開会が強行されても、私の考えは変わらない。感染拡大とそれに伴う貧困拡大をくい止めるため、今からでも中止を決断すべきである。

拡大東京五輪の開会式であいさつするIOCのトーマス・バッハ会長。右は橋本聖子・大会組織委員会会長=2021年7月23日午後11時、国立競技場
拡大新型コロナの重症患者らを受け入れる立川相互病院では、五輪開会式が始まった23日午後8時ごろ、新たにコロナ患者が高度治療室に入った。レッドゾーンで電子カルテを確認する高橋雅哉院長=2021年7月23日午後9時48分、東京都立川市

パンデミックは弱い立場の人ほど深刻。五輪強行は長期にわたり悪影響

 コロナ禍は世界のほとんどの国や地域で経済に打撃を加え、貧困を拡大させる「貧困パンデミック」とでも言うべき状況を現出させた。

 国際NGOのオックスファムは、今年1月に発表した『不平等ウィルス』と題したリポートにおいて、「地球上で最も裕福な1000人はコロナ禍での損失をわずか9ヶ月以内に取り戻したが、世界の最貧困層が立ち直るには10年余りかかる恐れがある」と指摘。女性や黒人など歴史的に疎外され、抑圧されてきたコミュニティへの影響は特に深刻だったとした上で、「統計を開始して初めて、ほぼ全ての国で格差が拡大する可能性が高い」と警鐘を鳴らした。

 日本も例外ではない。コロナ禍における貧困は、女性や外国人、非正規やフリーランスの労働者など、もともと社会の中で脆弱な立場に置かれていた人たちの間で拡大しており、「貧困パンデミック」は日本国内でも、社会に内在していた差別や不平等を増幅させていると言える。

 7月20日、東京大学の仲田泰祐准教授(経済学)らの研究チームは、昨年3月から今年5月までの国内の自殺者数(約2万7千人)はコロナ禍での失業率の上昇により約3200人増加したと見られるという試算結果を公表した。

 また、同チームが最新の失業率予測をもとに今年6月から2024年末までの自殺者数を試算したところ、コロナ以前の予測と比べて約2100人増える結果となり、失業率以外のさまざまな要因が自殺に関係している可能性を考えると、増加分が5000人になることもありうると指摘している。

 現在、東京都などで発令されている緊急事態宣言の効果を五輪が打ち消すことになれば、中長期にわたって日本の社会や経済に多大なマイナスの影響を与えるのは間違いないだろう。

拡大五輪開会式の日。東京・渋谷のスクランブル交差点前のビジョンには東京都の新たな新型コロナウイルス感染者数のニュースが映し出された。1359人で、34日連続で前週の同じ曜日を上回った=2021年7月23日
拡大国立競技場の近くの五輪モニュメン周辺は記念撮影する人でごったがえした。五輪に関係して密集状態が各地で生まれている=2021年7月23日、東京都新宿区
拡大「貧困パンデミック―寝ている『公助』を叩き起こす」(明石書店)
◆7月24日 朝日新聞朝刊be on Saturday「フロントランナー」欄に、筆者、稲葉剛のロングインタビューが掲載されました。本記事と合わせて、ご覧ください。

◆コロナ禍での生活困窮者支援活動の記録と政策提言をまとめた拙著「貧困パンデミック―寝ている『公助』を叩き起こす」(明石書店)が7月31日に刊行されます。ぜひ手に取っていただけるとありがたいです。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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