メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[55] 貧困パンデミック下の五輪は今からでも中止を――支援現場に深刻な影響

民の命を軽んじ犠牲を強いる「五輪ファースト」 この国はどこへ向かうのか

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

開催都市での貧困層排除 東京でもテント撤去やアパート解体

 コロナでなくても、五輪と貧困の関連は深い。

 五輪の開催都市では貧困層の排除が起こるのは通例となっており、2016年のリオ五輪では「ファベーラ」と呼ばれる貧困地域の強制排除が問題となった。

拡大ブラジル・リオデジャネイロのファベーラと呼ばれる貧困地域。リオ五輪の時期に強制排除が問題化した=2016年7月
 東京五輪の準備過程でも立ち退き問題は発生している。旧国立競技場に隣接していた東京都立明治公園では、2016年、公園の一部が都から日本スポーツ振興センター(JSC)に無償貸与された後、新国立競技場の建設のため、路上生活者のテントを撤去する強制執行が行われた。この問題ではテントを撤去された路上生活者がJSCや都、国に約350万円の損害賠償を求めて提訴しており、現在も裁判は進行中である。

 また、都立明治公園のさらに隣に位置していた都営霞ヶ丘アパートは、新国立競技場の敷地拡大に伴い、「歩行者の滞留空間となるオープンスペース」として公園に転換されることになり、2016年から2017年にかけて全ての建物が解体された。

 霞ヶ丘アパートに入居していた住民には、他の都営団地の住戸が提供されたが、複数の団地に分散して移り住むことになったため、高齢者中心であったコミュニティは解体された。移転後に亡くなった高齢者も少なくなかったが、移転に伴う心労も影響していたと推察される。

 現在、五輪に翻弄される都営霞ヶ丘アパートの住民を取材したドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』(青山真也監督)が、東京と京都で先行上映されている。私も試写を拝見したが、「コロナ禍が到来する何年も前から、五輪はいのちを軽んじ、犠牲を強いてきた」という感慨を抱かざるをえなかった。ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思っている。

拡大旧国立競技場のすぐ南側にあった都営霞ケ丘アパート(下)。新競技場のため解体され、住民は立ち退きを強いられた=2014年5月
拡大新国立競技場の建設当時の様子。南側にあった都営霞ケ丘アパートの跡地では歩行デッキが工事中。一帯は公園となった=2019年2月

追われる路上生活者 ライトアップや警告板設置

拡大東京・大手町ガード下に新たに設置された照明。警告板には「小屋の設置 荷物の集積 禁止」とある=2021年6月21日
 都立明治公園での路上生活者排除は強制執行というハードな形を取ったが、ソフトな形での排除も都内各地で進んでいる。

 2013年に東京五輪の開催が決定してから、都内の多くの公園で夜間のライトアップが行われるようになった。今年に入ってから、その傾向は強まり、私が路上生活者支援の夜回りで確認しているだけでも、大手町のガード下や日比谷公園で新たなライトが設置され、寝泊まりの禁止を伝える新たな警告板が設置されている。

拡大東京・日比谷公園に取り付けられた照明。「寝泊まり厳禁」の警告板も設置されている=2021年4月19日
 東京都の路上生活者概数調査によると、都内の公園や河川敷、駅舎などで暮らす人の数は、2019年1月時点で1126人だったが、今年1月の調査では862人まで減少している。

 減少の背景には、生活保護などの公的支援につながり、路上生活を抜け出した人も少なくないと推察するが、中には公園や道路を管理する行政当局に排除され、他県へと移動した人もいるであろう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

稲葉剛の記事

もっと見る