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子どもの「遊び」はレジリエンスの種~危機の時代に必要なこと

コロナ危機の今だからこそ、子どもが心置きなく遊べる環境は失われてはならない

小澤いぶき 児童精神科医、認定NPO法人PIECES 代表理事/Reframe Lab

身体の全てでこの世界を探索

 インドの詩人・哲学者であるタゴールの『もっとほんとうのこと』という短編に、こころがここではないどこかへ旅する話があります。

 私たちは生まれてから、刻々と変化する宇宙に身を委ね、地球の真ん中に引っ張られる力を感じ、自分の体に起きる変化をそっと受け取りながら、旅を続けます。そして、漂っていく自分の想像力を追いかけて、この世界にあるたくさんの「もっとほんとうのこと」に出会っていきます。

 私たちが持つ世界を感受する力は、思考よりも先に世界を感知します。私たちの持つ想像力は、まだ見えていない世界に出会おうとし、他者や他の存在の目に映る世界を知ろうとし、耳をすませ、目を凝らし、知らなかった誰かの世界を受け取ります。

 母親という他者の身体の中にいる時から、私たちは、手を動かし足を動かし、自分の指を自分の口に入れたりして、自分の身体を知覚します。その動かし慣れた身体が、この世界に出てきてから、遊びを通して、この世界を体験していきます。

 私たちは、周りのものを手でつかんで、つかんだものを口に入れて、その感覚を一つひとつ確かめながら、身体の全てでこの世界を探索します。誰かの髪の毛を掴んだり、近づいてきた顔のお肉をつかんだり。そして自分にとって心地よい感覚と、不快な感覚を知っていきます。

 おむつが濡れるのはどうやら不快で、新しいおむつになると心地よいらしい。私たちは、時に笑い、時に不快な感覚に泣き、周りの世界と自分をつなげていきます。不快な感覚を泣いて共有した時に、誰かが、例えばオムツを替えてくれて「不快」が「快」に代わるという体験は、この世界がちゃんと信頼できるものであると感じられる体験の入り口でもあります。

「言葉」を通じて体験や世界を他者と共有

 私たちは子どもの頃、他者が自分に向ける「言葉」を通して、自分の感覚や感情、この世界の輪郭を表すために、「言葉」というものがあることを知っていきます。「綺麗だね」「楽しいね」「悲しいね」「痛かったね」「赤い丸描いてるね」「緑のレゴを黄色のレゴの上に乗っけたんだね」など、これらの「言葉」はすべて、世界に輪郭を与えていく「言葉」たちです。

 そうして言葉の存在を知った子どもたちは、今度は自分の中に芽生えた言葉によって、自分の感じた体験やとらえた世界を他者と共有していきます。「ねえ、みてみて」「はい、あげる」「ねえ、綺麗だね」「悲しかったの」「嫌だったの」。

 その過程で、近くにいる私たち大人が、子どもから紡がれる言葉とその言葉が生まれた体験を否定することなく、「そっか、嫌だったんだね」「ほんとだ、綺麗だね」「教えてくれてありがとう」「ちゃんと見てるよ」などと受け取ることはとても重要です。

拡大imtmphoto/shutterstock.com

複雑な感覚が込められた子どもたちの言葉

 大人が勝手に判断するのではなく、一緒に目の前の風景を眺め、体験を共にしながら言葉を通して応答していく。そんな体験は、子どもにとって、「感情を受け止められた」「自分の経験を共有して大丈夫である」という安全や安心を感じる感覚に繋がります。

 というのも、子どもたちの言葉は、大人たちの想像を超え、実に複雑だからです。「階段の音って短くて長いね」「赤ちゃんの泣き声って、好きだけどちょっとうるさい」。これらはすべて、子どもたちが教えてくれた言葉です。短いのに、長い。嫌いだけど、好き。うるさいけど、静か……。一見両極にあるように見えることは、決して対立しているわけでも、交互に現れるわけでもなく、同時に自分の中に共存しています。

 こうした複雑で両儀的な感覚はどれかが正しいわけではなく、どれもが自分にとっては「本当の」感覚といえる一方で、同時に存在しているからこそ、ちょっぴり苦しい両極端の感情もあったりします。

 そうした言葉を、子どもたちがもっとも発するのは遊んでいる時です。そこで、自分では気づいていなかった感覚や感情をすくい取ったり、両極にあるような感情が生まれたりするという複雑なことを扱っていく技術を身につける。その点でも、遊びはとても大切です。

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筆者

小澤いぶき

小澤いぶき(おざわ・いぶき) 児童精神科医、認定NPO法人PIECES 代表理事/Reframe Lab

精神科医を経て、児童精神科医として複数の病院で勤務。トラウマ臨床、虐待臨床、発達障害臨床を専門として臨床に携わり、多数の自治体のアドバイザーを務める。人の想像力により、一人ひとりの尊厳が尊重される寛容な世界を目指し、認定NPO法人PIECESを運営している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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