「#問いを贈ろう」が開始。子どもの声を聞き、できることで関わり、社会の力に変える
2021年08月16日
社会課題に向き合う。どうしたら解決できるのかをともに考え、行動する――。そのきっかけとなる論考を、「論座」では積極的に「公開」していきます。
今回は、様々な環境に生きる子どもたちの周りに「優しい間(ま)」が生まれるための活動を続ける認定NPO法人PIECES代表の小澤いぶきさんの論考です。コメント欄にご意見をお寄せください。(論座編集部)
COVID-19の影響で、すぐ近くで起きている子どもの危機が見えづらくなったり、家が安全でない子どもたちの居場所が日常にないという課題が顕在化したりしています。その一方で、ここ数年、「子ども若者の孤立」に関する議論や、「子どもの権利」に関する議論が日本でも少しずつ活発になり、子ども庁の設置に向けた様々な議論がなされ、子どもの「well being」や孤立などに関して、世間の関心が高まってもいます。
このような議論が活発になる前から、「子どもたち」は私たちのすぐ隣で暮らしており、私たちの関わりをはじめ様々なことが、子どもたちを取り巻く環境に影響を与えてきました。関心が向けられつつある子どもたちをめぐる環境は、長期にわたる複層的な要素が重なって形成されています。
では現在、子どもたちを取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。子ども庁設置に向けての動きが活発化したり、政策が動き始めたりするなかで、あらためて子どもたちの環境を「自分ごと」として捉え直していく必要があると感じます。
私はこれまで、子ども、そして社会の「well being」を目指し、社会で生きる私たち一人ひとりの市民性を醸成し、子どもたちの周りに「優しい間(ま)」を生む活動を幅広く行う認定NPO法人PIECESを運営する中で、「子どもの生きる環境に、直接的であれ間接的であれ、誰もが関わっている」と感じてきました。
本稿では、「子どものwell beingを取り巻く多層的な環境、つまり、政策や環境問題、そして子どもたちに直接影響する環境」についてユニセフのレポートから考え、そうした環境を育むための、誰もが欠かせない一人であることを基にした共にできるアクションについて述べたいと思います。
この結果は、2020年9月にユニセフ・イノチェンティ研究所が発表したレポートカード16『子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』(Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)に掲載されています。
このレポートにある「精神的幸福度」は、「子どもの幸福度」の項目の一つです。調査項目として、「生活満足度の高い子どもの割合」や「自殺率」が挙げられています。
幸福度については報告当時、ニュースなどでも取り上げられて話題になりましたが、さらによくみていくと、子どもを取り巻く環境がとても複雑で複層的であることが、レポートから浮かび上がってくる点にあります。
レポートは序章で、「子どもの幸福度は、子ども自身の行動や人間関係、保護者のネットワークや資源、そして公共政策や国の状況から影響を受けることを示す、多層的なアプローチをとっている。このアプローチは、子どもの権利を実現し幸福度を促進するために、政府、家族、地域社会に責任があるとする、子どもの権利条約に沿ったものである」と明示します。そのうえで分析の枠組みとして、子どもが直接経験する「子どもの世界」を中心に置き、直接的・間接的に子どもに影響を与える「子どもを取り巻く世界」及び、経済的、社会的、環境的要因を含む「より大きな世界」を含めて複層的に分析を加えています。
またレポートには、子どもの権利条約の観点から、子どもたちの意見表明の機会及び意思決定への参加の重要性が、幸福度にも成長にも不可欠であることが記されています。
さらに、子どもの幸福度に影響を与えるより広い範囲の因子について、
・オーストラリアでは若者の59%が、気候変動を自分たちの安全にとっての脅威であると考えており、4人に3人が政府による環境への対策を求めている、
・子どもたちが将来についてどう考えるかは、現在の幸福度にも影響を及ぼす。例えば、環境問題を懸念している子どもは生活満足度が低い傾向にある、
といった詳細な記載もなされています。
このほか、社会的状況に関する「困った時に頼れる人がいるかどうか」という項目において、「日本は約20人に1人の大人が困った時に頼れる人がいないと感じており、38カ国中32番目であった」一方、殺人による死者は少ないのも特徴だと指摘しています。
ちなみに、内閣府が発表した 「子供・若者の意識」(出典:内閣府「子供・若者の意識に関する調査」)では、「どこにも相談できる人がいない」と答えた子ども・若者は21.6%にのぼっています。全て子ども・若者の現状の反映ではないかもしれませんが、子 ど も ・ 若 者 の5 人に1人が相談できる人がいないと感じていることがわかります。調査対象などが違うのでユニセフの調査と単純に比較はできませんが、子ども・若者の現状の一端を表している結果ではないかと考えられます。
こうした現状を見ていくと、子どもの幸福度には、環境や政策、地域社会におけるネットワークや資源のあり方、企業等における保護者の働き方など、様々な要素が関わっていることが分かります。逆に言えば、子どものことを全て家族の責任や枠組みだけで捉えるのではなく、社会に生きる私たちの一人一人、そして全てが関わる問題としてとらえ、向き合っていく必要があるのです。
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