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子供や若者の甲状腺がんの早期発見は有害無益である

過剰診断問題について公正で開かれた議論を

髙野徹 りんくう総合医療センター甲状腺センター長/大阪大学特任講師

若年者の甲状腺がんを早期に診断することで利益はあるのか

 では、このようながんをがん検診の目的で超音波検査等で超早期に診断すればなにか良いことがあるのでしょうか。

 高齢者で発生する甲状腺がんは未分化がん等、非常に悪性度の高いがんに変化することもあるので、一定の割合で患者を殺します。若年者で見つかる小さな甲状腺がんは高齢になってから悪性化してたちの悪いがんに変化するから早期に見つけることに意義がある、と説明している専門家も国内におられます。しかし、この説明は計算が合いません。

拡大超音波による甲状腺の検査=2018年2月10日、土浦市

 まず、小さな甲状腺がんは最近ではすぐに手術せずに経過をみることが世界の主流になりつつあり、既に数千人のレベルで経過観察の実績があります。しかし、その中で、実際にがんが悪性化して死に至った例は一例も報告されていません。さらに2000年以降、韓国で超音波検査で小さな甲状腺がんを見つけて予防的に手術することがなされましたが、20年経過した今でも甲状腺がんによる死亡数は低下していません(注2)。これらのデータは、若年期に発生する超音波でしか見つからないような小さながんが悪性化して死につながることはあるとしても極めてまれで、これらを治療しても無意味であることを証明しています。

 また、そもそも若年者の甲状腺がんでがん死に至ることは滅多にないので早期発見したところでこれ以上の改善を見込むのは難しく、超音波検査で若年者の小さながんを早期発見して治療しても死亡率の低下には役立ちません。

 また、超音波検査で若年者の甲状腺がんを早期に診断すれば、手術に伴う合併症を減らすことができるし、再発率も下げることができると主張している国内の専門家たちもいます(注3)。しかし、このような事実を証明した論文は一つも存在していません。

 以上をまとめると、若年者の甲状腺がんを超音波検査で早期発見することによる明確な利益は存在していません。多くの方にとってこの結論は予想外かもしれませんが、若年者の甲状腺がんの成長の仕方を考えれば当然の結果です。まず、そもそも若年者の甲状腺がんは途中で成長が鈍るので死に至ることは滅多にありません。そして若年者の甲状腺がんは超音波検査でしか見つからない大きさでも甲状腺の外にまで広がっています。つまり、超音波検査で小さい段階で甲状腺がんを見つけたとしても、それで甲状腺の外にがんが広がることを防げるわけでありません。もっと進行して症状が出てから見つかるのと、がんの進展度合いという点では状況的にあまり差が無いのです。そして仮に転移があったとしても、命に関わることは滅多にありません。

(注2) 参考文献:Takano T Overdiagnosis of juvenile thyroid cancer: Time to consider self-limiting cancer. J Adolesc Young Adult Oncol 9: 286-8, 2020.
(注3) このような主張は福島県が住民に配布している甲状腺検査の説明文書にみられる

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筆者

髙野徹

髙野徹(たかの・とおる) りんくう総合医療センター甲状腺センター長/大阪大学特任講師

大阪大学医学部卒、甲状腺専門医。2017年―2019年福島県「県民健康調査」検討委員会委員・甲状腺評価部会部会員。2019年よりヨーロッパ甲状腺学会小児甲状腺癌診療ガイドライン作成委員。若年型甲状腺癌研究会コアメンバー

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです