水島宏明(みずしま・ひろあき) ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授
1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター、「ズームイン!」解説キャスター等の後、法政大学社会学部教授を経て16 年4 月から現職。主な番組に「ネットカフェ難民」など。主な著書に『内側から見たテレビ』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
東京五輪のテレビ中継を振り返って
五輪期間中、あまり馴染みがなかった「サブチャンネル」を使ってテレビ観戦したという人は少なくないはずだ。NHKで五輪競技を見ていたら突然、画面にテレビリモコンの絵が映し出され、「これからサブチャンネルへの切り替え方法をご案内します。テレビのリモコンのご準備はお済みでしょうか」などと機械的な音声が流れたことで印象に残っていると思う。
サブチャンネルは21世紀に入って全国的に進められたテレビ放送のデジタル化で可能になったものだ。デジタル放送では1つのチャンネルで最大3つの異なる番組を放送できる。電波の帯域を分割する仕組みで、分割した場合には元々のチャンネルをメインチャンネル、残りをサブチャンネルと呼ぶ。
地上波やBSのハイビジョン放送の帯域を分割してサブチャンネルを活かす「マルチ編成」の放送を行うと、画素数が減って大きな画面で見ると画質はかなり悪い映像になってしまう。それでも競技を「生放送」で見たいという視聴者が視聴できる利点があるため、NHKは五輪期間中にいろいろな競技で「マルチ編成」を実施し、視聴を可能にした。
サブチャンネルは、大画面で番組を見ている人からは「鑑賞に耐えられない」などと手厳しい評価や苦情がつきものではあるものの、自分が興味をもっている競技の生放送を終わりまで見続けたいという人にとってニーズを満たすものなので、今回、そのメリットを享受した人もいるはずだ。
一方、民間放送は今回の五輪でサブチャンネルの放送をしなかった。公共放送とは違って営利目的で経営する民放では、サブチャンネルはスポンサーなどの調整が難しく、積極的な活用をしにくいというのが一般的な民放の姿勢だ。
放送倫理・番組向上機構(BPO)のホームページには、「NHKはスポーツ中継でサブチャンネルを開くのに民放はなぜしないのか」という中高生モニターからの質問に対して答えている在京の民放局のコメントが載っている。
民放A局「サブチャンネルを開けばメインチャンネルの視聴者が一部そちらへ流れることになります。NHKと違って民放はCMで成り立っているので、予定の番組を提供していただいているスポンサーへの配慮も当然必要になります」
民放B局「サブチャンネルの活用は、デジタル放送の特徴を生かした新しいサービスとして注目しています。しかしながら、2チャンネルに分割して放送した場合には、画質が低下するなど、解決しなければならない技術的な課題もあり、現在は実施していません」(青少年委員会 議事概要 第198回)
こうした背景もあり、五輪中継ではNHKだけがサブチャンネルを積極的に活用してそれぞれの競技の中継を最後まで放送した。
さて、このサブチャンネルについて、筆者は今回の五輪期間中、NHKも民放も、もっと別の形で活用すべきだったのではないかと考えている。それは「ニュース報道」のためにサブチャンネル放送を活用する形だ。
というのは五輪期間中に「ニュース報道」がどの局もかなり手薄になってしまったからだ。