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[56] YouTuber差別発言にツイートした厚労省の本気度~「生活保護は権利」発信の意義と限界

生活保護を「後回し」にする政府。「みんなの権利」といえる社会へ道筋を

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

「生活保護への忌避」があまりにも多い支援現場

 生活保護への忌避感については、コロナ禍での支援活動で何度も苦い思いを体験してきた。緊急支援の現場では、所持金が数十円、数百円しかない方、何日もほとんど食事が摂れていない方、すぐに医療にかかる必要のある方など、困窮度の高い相談者に出会う機会が多い。そうした方々の生活再建のため、私たちは生活保護の申請を勧めるのだが、「生活保護だけは勘弁してほしい」と拒絶される方があまりに多いのだ。

 緊急支援では、その方のいる場所に駆けつけた支援団体が1~3泊分の宿泊費・生活費を現金で給付して、とりあえず、体を休めてもらった上で、詳しい状況を聞き取って相談をおこない、生活保護の申請に同行。その後、ご本人名義のアパートを確保できるまで継続的に支援するという流れが一般的になっている。

 しかし、生活保護利用への忌避感を背景に「すぐに住み込みの仕事を見つけるので、当面の宿泊費・生活費だけ出してほしい」と相談者から要望されることも少なくない。そうした場合、ご本人の意思を尊重して、「1回のみ」という約束で現金を支給するが、コロナ禍で雇用が不安定になっているため、数か月後に同じ方からまたSOSが入るということを何度も経験してきた。

拡大生活保護利用者の男性。「家族に迷惑をかけたくない。自分の困窮ぶりを知られるのもつらい」と、扶養照会などがプレッシャーになったという思いを語った=2021年3月

忌避の背景に制度の「イメージ」

 忌避感の背景には、扶養照会などの制度的ハードルや、過去に相談に行った時の役所の対応が悪かった等の問題もあるが、多くの人が語るのは生活保護制度に関する「イメージ」の悪さだ。

 つくろい東京ファンドが生活保護利用への忌避感の要因を調べるため、年末年始に実施したアンケート調査でも、生活保護を利用したくない理由として以下のような声が寄せられていた。

・申し訳ない。本当に困った時に頼む。
・若いからうけるべきではないと自分の中で。
・今まで困ったことがないので受けようと思ったことはなかった。そうなったら終わりと思っていた。
・周りの人に知られたらどうしようと思う。
・よほどのことがない限り受けたくない。
・イメージが悪い。
・生活保護を受ければ、施しを受けている、おちぶれていると言われてしまう。
・相談に行くハードルが高い。「生活保護」名前を変えて欲しい。

拡大生活保護に関する広報の強化やオンライン申請の導入を求めて、厚生労働省へ申し入れた(右は筆者)=2020年12月
 DaiGo氏の差別扇動は、もともと社会に蔓延している生活保護制度に対するマイナスイメージをさらに悪化させ、結果的に命をつなぐ制度から生活困窮者を遠ざけるものである。それは間接的に生活困窮者を死に追いやる効果をもたらすものだと、私は強い危機感を抱いた。

 意外なことに、同じ危機感を共有していた(であろう)人が公的機関の中にもいた。厚生労働省社会・援護局保護課の担当者だ。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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