メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

五輪開会式中継で忘れられた手話通訳~取り残される人を減らすため一緒に考えて!

多様性と調和は「チョー難しい!! 」

藤木和子 弁護士・聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表

字幕があればいい?~障害への配慮と言語の尊重

 また、「字幕があれば、手話通訳はなくてもいいのでは?」は、繰り返しなされる質問です。

 手話を言語とするろう者は、国内に約6万人~10万人程いるといわれていますが、その言語背景は多様です。特に高齢世代には、戦時中を含む乏しい教育環境から、字幕をスムーズに読むのが困難で手話通訳が必要な人がいます。そして、字幕で十分に情報を取得できる人にも、可能であれば手話通訳を希望する人、字幕の方が情報取得しやすい人まで、幅広くいます。

 理解していただきたいのは、手話通訳については、「障害がある人への合理的配慮」、いわゆる「情報のバリアフリー」の側面が重要であるとともに、たとえ情報を取得するには字幕で十分であったとしても、自分の言語でオリンピック・パラリンピック開閉会式を観ることができること、そして、その国際的な大舞台で「ろう者の言語である手話が尊重される」ということが「多様性と調和」の視点から大きな意義があるということです。

 カナダはバンクーバーオリンピックの際に先住民の少数言語8つを含む22か国語でテレビ中継を行ったそうです。言語の尊重と「ショーの小道具化」という葛藤、ハレの日のお祭りで終わりにしてはならないという課題はあるにしても、国際的な大舞台で自分たちの大切な言語の「存在」が認められるということは、ろう者や手話関係者の誇りにつながることだと思います。言語は世界に7000以上あるそうですが、英語のように優勢な言語から少数言語まで、すべての言語は対等です。

2つの閉会式中継~手話なしのNHK総合と、ろう通訳のEテレ

 さて、オリンピック閉会式の話に戻りますが、NHK側も要望を誠実に受け止めてくださり、数度の書面でのやり取りを経て、8月8日の閉会式には手話通訳が付きました。

 具体的には、NHK総合、Eテレと2つの中継が行われ、総合は手話なし、Eテレには小さなワイプ(画面の片隅に別の映像を表示すること)ではなく、画面の右側3分の1程の見やすい大きさの手話通訳が付きました。また、「ろう通訳」として、画面上にはろう者の手話通訳者が立ちました。

ろう通訳が入った五輪閉会式のNHKの中継映像=筆者提供拡大ろう通訳が入った五輪閉会式のNHKの中継映像=筆者提供

 ろう通訳とは、①聴覚障害のない聴者の手話通訳者(フィーダー)が音声情報を手話で伝え、②ろう通訳者がよりわかりやすいネイティブ的な手話表現に言い変えるというリレー方式の通訳方法です。ろう者と聴者がチームとして協働する形で行われます。オリンピックの閉会式というハレの日にふさわしい、真の意味での言語の尊重、多様性と調和を体現した素晴らしい試みだと思います。私自身、ろう者の家族として、手話通訳に関わる者としてうれしくなりました。

 ろう通訳は、一般の視聴者からも「手話の人」、「顔芸がすごい」、「金メダルをあげたい」等と注目されました。予想通り、言語の尊重と「ショーの小道具化」の葛藤は起こりましたが、今後この大きなきっかけをどのように活かしていけるかが、「手話の人」が「手話通訳」、「ろう通訳」として認知されていくための試金石になると思います。

「良かった」と「総合テレビに手話通訳を」、究極のジレンマ

 この2つの中継、Eテレでの取り組みという答えは、NHKの現場の方々が「多様性と調和」という難題に対して誠実に向き合い、「分離・隔離・排除」と「手話通訳の見やすさ」という究極のジレンマの中で出されたひとつの模範解答であり、画期的な挑戦だったと思います。

 私を含む多くの人が、Eテレを視聴して、オリンピックの閉会式という大舞台で、ろう通訳を見やすい適切な大きさで観られること、聞こえない・聞こえるに関わらず、閉会式が家族で一緒に楽しめるものになったことに喜びを強く感じました。「手話がすごく伝わってくる!」という感動とともに、いつもテレビを観ている時には必ず表示していた字幕を今日は消したという投稿もTwitterにいくつもありました。

 しかし、これは究極のジレンマであるとしか言いようがなく、チャンネル数が2つしかない制約によるところも大きいですが、多数の人が視聴する総合と、手話通訳付きのEテレとに分けることへの疑問、違和感が拭えなかったことも事実です。喜びや感動がベースにありつつも、頭も心も大きく揺れました。

 閉会式後のWeb上の緊急アンケートの結果もその点を反映しています。2762名の回答者のうち、Eテレの手話通訳が良かったと回答した人が83.4%(2303名)である半面、総合テレビに手話通訳をつけることを望むと回答した人も71.0%(1962名)となりました。

 このアンケート結果は、総合テレビにおいて手話通訳(ろう通訳)を放送していただきたいという要望とともにNHKに提出しています。映像制作のプロであるNHKの方々には、非常に多くの方々が協力してくださったアンケートの結果を踏まえて、今回のオリンピック・パラリンピックに限らず、今後の国民的行事と手話通訳のより良い形についてご検討いただければと、期待を込めて提出しました。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

藤木和子

藤木和子(ふじき・かずこ) 弁護士・聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表

1982年生まれ。耳の聞こえない弟とともに育つ。手話通訳者。全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)副会長。障害のある人のきょうだい(兄弟姉妹)・ヤングケアラー経験者として活動。全国優生保護法弁護団。 【Twitter】 https://twitter.com/KazuFujiki 【Facebook】 https://www.facebook.com/kazulinlin

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

藤木和子の記事

もっと見る