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「今の感染者増、半分は人災」「政治にも責任」~酸素ステーション発案の医師が異議

「国は感染抑制へ約束果たさず」と憤り総合的対応を訴え―神奈川県統括官インタビュー

茂木克信 朝日新聞田園都市支局長

拡大患者の対応に当たる酸素ステーション(かながわ緊急酸素投与センター)の看護師ら=2021年8月16日、横浜市中区、代表撮影

全国初の酸素ステーション稼働、発案の阿南医師「忸怩たる思い」

 新型コロナウイルスの感染爆発で各地で病床が逼迫(ひっぱく)し、自宅療養者が増えている。

 療養中に容体が急変し、命を落とす人も出る中、神奈川県が設けた全国初の酸素ステーション「かながわ緊急酸素投与センター」(24床)の利用者が増えている。症状が悪化した療養者に対し、入院先が決まるまでの間、応急処置として酸素投与を行う施設だ。8月7日に県の宿泊療養施設の一つ、横浜伊勢佐木町ワシントンホテル(横浜市中区)内で稼働を始め、9月1日朝までに90人を受け入れた。

 期待通りの役割を果たしているが、神奈川県のコロナ対策を指揮し、酸素ステーションの設置を発案した阿南英明・医療危機対策統括官(56)は「忸怩(じくじ)たる思いがある」と語る。

クルーズ船の感染者搬送指揮、神奈川県のコロナ対応統括官に

拡大新型コロナウイルスに感染した患者を搬送するため、ダイヤモンド・プリンセス号の周辺には連日、多くの救急車が集まった=2020年2月10日、横浜港・大黒ふ頭、朝日新聞社ヘリから
 神奈川県の人口は、感染爆発中の東京都に次ぐ全国2位(924万人余)。県内には8月2日から3回目の緊急事態宣言が出され、同月31日時点のコロナ病床全体の利用率は80.4%、重症者用に限ると91.3%と全国でも極めて高い水準で推移する。一般的に病床利用率が80%を超えると入院調整が困難になるとされ、状況は厳しい。

 阿南氏は藤沢市民病院(同県藤沢市)の副院長で、救急医学や災害医学の専門家でもある。2011年の東日本大震災や16年の熊本地震の際は、全国各地から駆けつけた災害派遣医療チーム(DMAT)の活動を東京の本部で支えた。

 新型コロナをめぐっては昨年2月、横浜港に停泊中のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセスで発生した集団感染の患者の搬送調整を指揮した。その経験を生かしてほしいと県に請われ、同年4月に始まった新型コロナ対応の医療提供体制「神奈川モデル」の構築に務めた。

 この体制では、コロナ病床の逼迫を防ぐため、重症者は高度医療機関、中等症者は重点医療機関で受け入れる一方、無症状・軽症者は自宅や宿泊施設での療養を基本とした。

拡大新型コロナウイルス対応の医療提供体制「神奈川モデル」の核となる重点医療機関を公表する神奈川県の黒岩祐治知事=2020年4月1日、県庁

政府の酸素ステーション設置の姿勢に疑義

 昨年5月からは、中等症者の病床を確保するため、臨時医療施設が順次稼働。感染者が急増した昨年12月には、神奈川県は65歳以上や基礎疾患がある人は原則入院としていた方針を転換。「入院優先度判断スコア」という、年齢や基礎疾患を点数化し、入院対象者を一定の点数以上の人に絞る仕組みを導入した。酸素ステーションを含め、こうした全国の先駆け的な施策の中心にいるのが阿南氏で、行政と医療現場の両面からコロナ対応に奔走している。

 そんな阿南氏がインタビューに応じ、政府が酸素ステーションの設置に旗を振ることに複雑な胸のうちを明かした。

拡大    阿南英明・神奈川県医療危機対策統括官

筆者

茂木克信

茂木克信(もてぎ・よしのぶ) 朝日新聞田園都市支局長

1973年、福岡県生まれ。97年朝日新聞社入社。盛岡支局(現総局)、豊橋支局、名古屋社会部、東京社会部、仙台総局、石巻支局、秋田総局次長などを経て、2019年5月から現職。同年9月から神奈川県政担当を兼務。個人情報を含む膨大な行政文書が記録された同県庁のハードディスクが、ネットオークションで転売されていたことをつかみ、同年12月6日付朝刊で特報。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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