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パラリンピックの陰で……ワクチン接種もままならぬ障害者たち

クラスターが起きる支援施設、なのに学校連携観戦か?

白崎朝子 介護福祉士・ライター

相次ぐ訃報、静謐な祈りを捧げた日々

 「病状が悪化しています。この週末が山場です」といった趣旨の連絡が入院先から複数きて、家族も職員も覚悟したと澤井さんから聴いた私は、祈り続けた。週明けには峠を越したと聴いて、心の底から安堵して、「まだまだ大変だと思うけど、亡くなる人がいないのが、せめてもの救いですね」と澤井さんと話した。

 だが、そう話した翌日から3日間で、立て続けに入所者3人が亡くなった。

 「今日、ふたり亡くなりました……」との報告を受けた夜、私は親しい友人に話を聴いて貰ったが、なかなか寝つけなかった。

 オリンピック選手はワクチンの優先接種だけでなく、毎日2回もPCR検査を受けていた。にもかかわらず、私とつながりのある首都圏の知人たちからは、 「障害者はワクチンの優先接種がされない。支援者の私もパラリンピックが終わったあとにしかワクチンの抗体ができない」「医療現場で働いているのに、昨年から1回もPCR検査を受けられていない」との声を聴いていた。

 クラスターが出たあとでも、定期的なPCR検査を全く実施しない、東京都内の認知症高齢者が住むグループホームもあった。

 施設Aは今年の春から毎週PCR検査を実施しており、リスクマネジメントはかなりできている施設だった。それでも、オリンピック開幕直後にクラスターが発生した。同じ首都圏に、熱心に検査をしていたがクラスターを防げなかった高齢者のデイサービスがあるとも聴いていた。その事例を知らされた矢先、施設Aでもクラスターが発生した。

 懸命に介護した入所者の訃報を聴いた職員たちの心中を思うと、静謐な想いで亡くなった入所者の冥福を祈るしかなかった。

拡大ある障害者支援施設の庭先。地域住民もボランティアで手入れをしてくれているという。

クーポン券を送るだけでは優先接種はかなわない

 私はワクチンの安全性には疑念を抱いている。だが、打たないとしても、打てる選択肢があるのと、最初から優先接種のリストから除外されているのとでは、意味が違う。本来なら、障害者も高齢者と同時に優先接種されるべきだ。

 しかし、障害者に対し、国としては重い精神疾患のある人など、一部を医療従事者と高齢者に次いで優先接種する「基礎疾患を有する者」に含めているだけ。自治体によっては優先接種するところもあるが、自治体間の格差が激しい。

拡大厚生労働省ホームページから

 例えば、神奈川県のB市の障害者支援施設では、入所者、職員(実習生も含む)とも接種が早かったという。だが同県のC市には、入所者も支援者もいまだ2回目の接種ができてない精神障害者のグループホームもある。

 施設Aでのできごとからみえたのは、高齢の障害者さえ接種がままならない現実だった。

 施設Aの入所者のうち高齢者は約4分の1。同じ自治体にある高齢者の入所施設は、入所者も職員もオリンピック前に希望者のワクチン接種が済んでいた。だが施設Aはすぐ近くの高齢者施設よりも2ヶ月以上あとでしか、第1回目のワクチン接種がなされず、クラスターで亡くなったのは全員、高齢の障害者だった。

 国は高齢者を優先接種の対象にしているが、障害のある高齢者を接種会場に連れていくのは難しい。

 「たしかに制度的には対象になってはいます。ただし連日のように高齢・基礎疾患のある入所者の定期・臨時・急変時の通院があるため、対象者全員を接種会場に連れて行く日時の確保がまず難しい。優先接種をするためには、感染リスクなく接種会場に行き、接種ができるような安全性と人員の確保等をするか、接種会場に行かずとも施設内で早期に接種が行われる手立てをするか、どちらかが必要ではないでしょうか」と澤井さんは言う。

 優先接種のクーポン券を送るだけで、すぐにワクチンが打てるわけではない。

 普段から集団生活をしている高齢の障害者が接種会場に行き、そこで感染するとクラスターに発展するリスクもある。また自閉症の人などは、違う環境に連れていかれてパニックになる可能性があり、注射をするには数人の職員が対応しなければならない場合もある。慢性的な人手不足のなか、そのような人手はとても割けない。それらの複合的な理由もあり、高齢の入所者20数人の優先接種すらも困難だった。

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筆者

白崎朝子

白崎朝子(しらさき・あさこ) 介護福祉士・ライター

1962年生まれ。介護福祉士・ライター。 ケアワークやヘルパー初任者研修の講師に従事しながら、反原発運動・女性労働・ホームレス「支援」、旧優生保護法強制不妊手術裁判支援や執筆活動に取り組む。 著書に『介護労働を生きる』、編著書に『ベーシックインカムとジェンター』『passion―ケアという「しごと」』。 2009年、平和・ジャーナリスト基金の荒井なみ子賞受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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