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酷暑下開催の「夏の甲子園」は見直しを

スポーツ行事と資本の論理

平山昇 神奈川大学准教授

資本の思惑で夏開催が定着した「甲子園」

 実は、日本国内にも、酷暑の中でのスポーツ大会を資本の思惑から定着させた先例がある。全国高等学校野球選手権大会、「夏の甲子園」である。

 ちょっと考えればわかることだが、野球を酷暑の中でしなければならないという必然性はまったくない。それなのになぜ8月にクライマックスが設定されているのか? それは、主催者の朝日新聞社と甲子園球場を所有する阪神電鉄にとってこの時期に開催したい事情があったからである。

 冷暖房が完備していなかった戦前の日本では、行楽に最適な春と秋には人々が大勢出かけるのに対して、夏と冬は暑さ・寒さのせいで外に出かけようとする人が少なかった。インターネットもなかった当時は、人出が減ればそれだけ世間の話題も減る。新聞社はネタに困り、鉄道会社は乗客減少に困る……。だから、「夏と冬のオフシーズンの収益減をなんとかしなければ!」というのが、近代日本のメディア資本と鉄道資本の共通課題だった。

第103回全国高校野球で、智弁同士の対決となった決勝戦が開かれた阪神甲子園球場=2021年8月29日拡大第103回全国高校野球で、智弁同士の対決となった決勝戦が開かれた阪神甲子園球場=2021年8月29日

 実際に、1932(昭和7)年の旅行雑誌の座談会記事を読むと、大阪電気軌道(現・近鉄)の運輸部次長は「春と秋はお客が多いですが、夏と冬がさっぱりアカンので、これを緩和する意味でラグビーを始めました」とあけっぴろげに語っている。この発言からわかるように、現在の全高校ラグビー大会、「冬のラグビー」もまた資本の論理で季節設定された行事だった。

 「朝日新聞+阪神電鉄」がつくりあげた「夏の甲子園」。

 「毎日新聞+近鉄」がつくりあげた「冬のラグビー」。

 なんともうまくできたものである。ちなみに、正月の初詣も、同じく「新聞+鉄道」の協力関係のもとで戦前の都市部において広く定着した行事である。

 ここで一つ気づくことがある。

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筆者

平山昇

平山昇(ひらやま・のぼる) 神奈川大学准教授

1977年長崎県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。立教大学兼任講師、九州産業大学地域共創学部観光学科准教授などを経て神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科准教授。著書に『初詣の社会史 鉄道と娯楽が生んだナショナリズム』(東京大学出版会、第42回交通図書賞受賞)、『鉄道が変えた社寺参詣』(交通新聞社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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