2021年09月18日
9月14日、ニューヨークでブロードウェイミュージカルの「ライオンキング」など、5つのショーが幕を開けた。
100年以上の歴史を持つブロードウェイは、過去に何度か俳優やミュージシャン、舞台係の組合のストライキ、悪天候などで閉鎖を経験してきた。先日20年を迎えた2001年9月11日の同時多発テロ事件後も、2日ほど公演を中止した。だが2020年3月から始まったパンデミックの影響による18か月の閉鎖は、史上最長だった。
夜も照明で照らされていたことから「Great White Way/偉大な白い道」と呼ばれていたブロードウェイ(正確には41丁目から53丁目までのブロードウェイ界隈のシアター街全体を指す)だが、2020年3月にパンデミックで閉鎖されてからは「Great White Wait/偉大な白い待ち」ともじられていた。
パンデミックによる閉鎖から段階的に回復してきたニューヨークで、すでにシアターはいくつか再開していた。だが14日は大ヒット作品の「ハミルトン」「シカゴ」「ウィッキド」などが揃って幕を開け、2005年にテレビ映画化されたミュージカル「ラッカワナ・ブルース」も、ブロードウェイデビュー。いよいよブロードウェイに本格的に活気が戻ったのである。
久しぶりの再開とあって、どこの劇場も満席で熱気に包まれた。曲が終わるごとにスタンディングオベーションとなり、感極まって涙を流す人も多かったという。
ソーシャルディスタンスのための間を空けることなく、通常通りチケット販売をしたが、新型コロナウイルスの対応は厳しく施行された。安全管理専門のスタッフが各劇場に配置され、12歳以上は入場時のワクチン接種証明書の提示、12歳未満と健康上、宗教上の理由でワクチン接種を済ませていない人は72時間以内のPCR検査の陰性証明書(抗体テストは開幕前6時間以内)の提示などが義務付けられている。また建物内では、常時マスク着用のルールも厳しく適応された。
今月はブロードウェイシアター以外にも、リンカーンセンターのニューヨーク・フィルハーモニック、メトロポリタン・オペラ、ニューヨーク・シティ・バレエ、そしてカーネギーホールも屋内公演を再開する。夏の間は市内中の公園や広場で野外公演が開催されてきたが、いよいよ1年半ぶりに本格的にニューヨークの舞台芸術が戻って来る。筆者も2年ぶりのシーズン到来とあって、メトロポリタン・オペラとカーネギーホールはサブスクリプションシリーズのチケットをしっかり抑えた。
一時は世界でも最悪の新型コロナウイルス感染地だったニューヨーク市だが、2021年9月現在、こうして経済の回復と日常の正常化は着々と進んでいる。
その鍵となっているのが、Key to NYCと呼ばれているワクチン接種証明書だ。デブラシオ市長は、8月からレストランの屋内ダイニング、バー、フィットネスジム、美術館や劇場、ナイトクラブ、映画館などの入場時に、12歳以上の全ての顧客と従業員にワクチン接種証明書の提示を義務付けた。これは全米でも初の試みで、もちろん反発の声もあった。
だが知人の日本食レストラン経営者は、「これまでお客さんから苦情が出たことはありません。逆に、全員ワクチン接種済みと確認できて安心、という声が多いです」と語る。もちろん、レストランの場合はワクチン接種証明書がない人は、屋外の席で食事をすることが許されている。
この義務付けのためもあったのか、現在ニューヨーク市内ではワクチン接種率はマンハッタンに限ると成人で79%まで上がっている。
ではデルタ株が問題となっている現在、実際のワクチン効果は数字でどのように表れているのか。
ニューヨーク市の調査によると、現在検査を受けた人の陽性率は9月に入ってこれまでの3%台から2%台後半までに下がっている。だがそれよりも、ニューヨークの経済再開を支えているのは、ワクチン接種開始前よりも重症化する人々の数がぐっと減ったことだ。
パンデミックのピークだった2020年の4月には毎日5000人前後が陽性の診断を受け、1600人余りが入院、7日間平均でおよそ800人が亡くなった週もあった。セントラルパークには野外病院のテントが並び、安置所に入らない遺体の保管用冷凍トラックが、各病院の裏口に並んでいる光景は今でも忘れられない。
だが1年半が経過した2021年9月中旬現在
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