社会課題を目標に掲げたリーグのメッセージ。女性活躍と多様性を認めあう未来へ
2021年09月19日
「日本の女子スポーツの新しいページが、本日開きます。ウーマンエンパワーメント(WE)という名前で、日本のジェンダー平等を前に進める、覚悟のリーグです。世界一の女子サッカーと世界一の女性コミュニティーの実現に向けて、そして多様な生き方と夢が生まれる社会を目指して、みんなが主人公になるために、WEリーグがステージとなります」
リーグ発足の理念が溢れる挨拶に、スタジアムに足を運んだ4123人のファンからも大きな拍手が沸いた。
93年からわずか28年で、Jクラブは当時の10から57クラブにも拡大。「大きな夢」のひとつだったW杯出場もリーグ発足から5年後の98年フランス大会で実現し、女子日本代表「なでしこジャパン」は2011年、男子より先にW杯(ドイツ大会)で優勝を果たした。
いくつかの夢を実現したうえで誕生した女子プロサッカーからの発信には、夢ではなく、女性活躍社会や多様性といった競技外での社会の問題意識、現実的な目標が盛り込まれた。時代の変遷、同時に時代とともにスポーツに求められる使命の変化を象徴するようなメッセージだった。
選手が読み上げた「クレド」も新しく、他競技にはないユニークなものだった。
クレド(Credo)とはラテン語で「信条、約束、志」を示し、企業では経営者側の理念とは別の、従業員の行動規範として従業員が自主的に定めるケースもある。
WEリーグは「WEリーガークレド」として以下を定めた。
WE PROMISE
私たちは、自由に夢や憧れを抱ける未来をつくる
私たちは、共にワクワクする未来をつくる
私たちは、互いを尊重し、愛でつながる未来をつくる
みんなが主人公になるためにプレーする
開幕の日も各会場で、選手が試合前にこのクレドを読み上げた。開幕前、選手たちが話し合い、考えたものだという。
プロリーグの発足は、国内の競技レベルの向上に好影響を与えるものでなければ価値は薄れる。
今夏の東京オリンピックで「なでしこジャパン」はグループリーグを1勝1敗1分けと3位で突破。8強に入ったものの準々決勝でスウェーデンに1-3と完敗を喫した。
16年リオデジャネイロ五輪の出場権を逸して以来、19年のW杯フランス大会でもトーナメントに進出するも進境著しいオランダに敗れ、東京でもスウェーデンに完敗と、いずれも欧州勢の壁に跳ね返されている。
11年のW杯優勝以降、体格では劣る日本が示した、高い技術を活かす組織的なサッカーを世界中が目標に据えるようになった。
欧州の国々や、アジアでも東京五輪で初の4強に進出したオーストラリアに代表されるように、体格も備えた女子選手たちが日本の組織力や技術を本格的に追随したため、日本の持ち味が特別ではなくなり、反対に自分たちの新たなスタイル、長所を模索する皮肉な結果となってしまった。
東京では、カナダが初めて金メダルを獲得し、スウェーデンが2大会連続準優勝に輝くなど、女王アメリカに代わるトップの座をめぐる争いは激化する。世界的にも、欧州の男子強豪クラブを中心とした女子クラブの併設と強化、アメリカのように代表チームを特化する方法など、それぞれが女子サッカーの強化策を打ち出す。
遅れを取った日本も、「ここでプロリーグをスタートさせ、今後の強化策を明確にしていかなければ、といった危機感ももちろん抱いている」と、WEリーグ大宮の総監督を務める佐々木則夫氏(11年W杯優勝監督)は話す。
今後、海外の有力選手の招へいや、海外の指導者がクラブを指揮するなどの「国際化」が重要なテーマとなる。
昨年の皇后杯覇者日テレ・東京ヴェルディベレーザと、リーグ覇者の三菱重工浦和レッズレディースの開幕戦(味の素フィールド西が丘、浦和が2-1で勝利)を観戦した川淵三郎氏は試合後、「選手たちが、プロになり、一生懸命に良いプレーを見せようという気概が見えた」と、再び世界をリードする日に向けてエールを送った。
WEリーグは、昨年クラブの参加を募った際、Jリーグや昨年までの「なでしこリーグ」にはなかった参入基準を設定。「スタジアム内に託児所を確保する」とし、その条件を満たすクラブを初代11クラブに選んだ。
今では、スポーツのあらゆるシーンでママ選手への配慮はあり、観戦する若い世代のために託児所を設置するスタジアムも野球、サッカーで増えている。
WEリーグはこれを参入の条件とし、選手の支援やサッカー観戦客だけではなく、クラブのスタッフや試合運営に関わる関係者にも利用できるように考えた。
長男を出産して復帰したW杯優勝を経験するベレーザのDF岩清水梓(34)は、WEリーグの看板ともいえるママ選手だ。
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