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食品自販機は愛好家のいる昭和レトロからコロナ禍の新機種へ

壊されたレトロ自販機は代わりがない

赤木智弘 フリーライター

 この9月、深夜に若いカップルが笑いながらハンバーガーの自動販売機の注文ボタンを破壊したという事件があった。

 現場は「レトロ自販機の聖地」とも呼ばれ、その種類の豊富さと、首都圏からもアクセスしやすいことから、古い自動販売機を懐かしがる年齢の人から、昭和レトロを求める若い人などにも人気のある、神奈川県相模原市のタイヤ販売店である。

 どうやら自販機がお金を受け付けなかったことで、ボタンを壊れるまで殴ったとみられている。

 僕は昭和50年生まれである。子供の頃はこうした食品の自販機を置いたオートパーラーはありふれた存在だった。

 ハムトーストやうどん・そば、かき氷など、今メディアで「レトロ自販機」と呼ばれる食品の自販機は、いずれもかつて慣れ親しんだ懐かしい存在である。幹線道路沿いに今のようにチェーン店の看板がならんでいなかった頃、深夜に車を走らせるトラックドライバーたちにとっても深夜でも温かい物が食べられる憩いの場であった。

うどん自販機、レトロ感も味 国道226号沿い、九州最後の?1台 南さつま/鹿児島県 国道沿いの自動販売機コーナー=南さつま市うどんやそばの自動販売機コーナー=鹿児島県南さつま市

 僕は食品自販機で販売されるハンバーガーが好きで、家族で遠出するときは、必ずと言っていいほど買ってもらっていた。そういう意味では家族と過ごした日々の大切な思い出の1つとなっている。

 箱ごと冷凍されたハンバーガーは、購入時に自販機内部の電子レンジで温められる。出てきた時は持てないほど熱く、解凍の際の蒸気でバンズがしわしわになっていた。だがそのジャンク感こそが食品自販機の魅力であった。

レトロ自販機の保守管理は非常に困難

suchada kupraditphanshutterstocksuchada kupraditphan/Shutterstock.com

 しかし時代も下り、国道沿いにコンビニエンスストアが建ち並ぶようになると、古ぼけたオートパーラーはどんどん廃れていった。そしてオートパーラー用に食品を提供していたメーカーも、次々と自販機事業から撤退していった。僕が好きだったハンバーガーを供給していた「マルシンマック」も、2002年頃に事業から撤退してしまったようである。

 最近まで冷凍食品のニチレイフーズが、アミューズメントパークやパーキングエリア、ホテルなどをターゲットに食品自販機を展開し続けていたが、撤退を決定し、商品供給も終了。現在ではそのほとんどが撤去され、今年秋のうちには全台撤去が完了するという。

 自販機を壊したカップルは「機械なんだから直せばいいじゃん」くらいに考えているのかも知れないが、レトロ自販機の保守管理は非常に困難となっている。すでに保守の部品も無く、自販機を収集している人たちが自分たちで修理したり、壊れた同系統の自販機から部品を取って保管したりすることで、なんとか稼働させているのである。

 商売としてはかなり厳しく、現状ではかつての雰囲気を好む愛好家たちが、採算度外視で古い自動販売機を生かし続けている。今回被害を受けたタイヤ販売店も、そうした店の1つである。

 もちろん、メーカーが保守管理している現行の自販機だから壊して良いという事ではないが、苦労してなんとかレトロ自販機を残しているという現状を知っているからこそ、今回の破壊行為に対する怒りを僕は強く感じるのである。

 僕自身もついTwitterに「お前らの代わりはいても、レトロ自販機に代わりはない」みたいなことをつぶやいて

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