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勝訴の原告が「摩訶不思議」と苦悩~被差別部落の地名リスト裁判の微妙な判決

出版禁止やリスト削除命じるも一部を除外。「差別されぬ権利」は認めず

北野隆一 朝日新聞編集委員

拡大裁判の原告側集会で「全国部落調査」と書かれた冊子を掲げる弁護士=2016年9月26日、東京都千代田区(本稿の写真は全て筆者撮影)

初取材から四半世紀、「現在もなお存在」と法が明記する現実

 私が部落問題を初めて取材したのは、新聞記者になって4年たった1994年春のことだ。歴史的な身分制度が由来ともいわれる出自により、被差別部落出身とされた人が結婚や就職などの人生の節目で排除されたり、経済面や教育面などで低い状態に置かれたりする問題である。差別の理不尽さに衝撃を受けたが、同時に、こうした問題はやがてなくなっていき、21世紀には「前世紀の遺物」として忘れられていくのだろうと思っていた。

 だから2016年にもなって、「部落差別解消推進法」という名称の法律がつくられ、第1条に「現在もなお部落差別が存在する」と書かれるような事態が続いていようとは、若かったころの自分には想像もできなかった。

「部落差別解消法」誕生のきっかけの裁判で判決言い渡し

 この法律ができるきっかけとなった裁判の判決が、今年9月27日、東京地裁で言い渡された。

 原告は部落解放同盟と同盟員ら約230人。川崎市の出版社と運営者らを相手取り、被差別部落の地名をまとめた書籍の復刻出版禁止とネット上に掲載した地名リストの削除を求めていた。東京地裁の成田晋司裁判長は判決で原告の訴えを大筋で認め、大半のリスト削除と出版禁止を命じた。

拡大判決後、「勝訴」などと書かれた紙を掲げる原告側弁護士ら=2021年9月27日、東京・霞が関の東京地裁前

原告「勝訴の旗出し」大幅遅れの理由は

 判決言い渡し後、東京地裁の門前に、法廷に入りきれなかった原告たちが集まった。弁護士が紙を広げて判決の概要を知らせる「旗出し」を見るためだが、弁護士がなかなか地裁から出てこない。

 解放同盟幹部から「判決文が分厚く、中身が複雑で、分析に時間がかかっている」との説明があった。30分ほどたってようやく弁護士が現れ、「勝訴」「損害賠償、出版差し止め、ネット削除を認める」と大きく書かれた紙を掲げ、やっと安堵したような拍手が起きた。

 その後の報告集会や記者会見でも、原告側代理人の河村健夫弁護士は「きわめてわかりにくい、摩訶不思議な判決」と述べ、指宿昭一弁護士は「微妙で煮え切らない内容で、大勝利と喜べる判決ではない」と形容した。


筆者

北野隆一

北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員

1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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