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勝訴の原告が「摩訶不思議」と苦悩~被差別部落の地名リスト裁判の微妙な判決

出版禁止やリスト削除命じるも一部を除外。「差別されぬ権利」は認めず

北野隆一 朝日新聞編集委員

拡大被差別部落地名リスト出版差し止め訴訟提訴のため東京地裁に入る部落解放同盟関係者ら=2016年4月19日、東京・霞が関

初のプライバシー侵害認定―提訴から5年経て「画期的」判決

 訴えによると出版社は2016年2月、戦前の調査報告書「全国部落調査」を復刻出版した書籍を販売するとネットで告知。ネット上に地名リストや解放同盟幹部らの名簿を載せた。解放同盟側の申し立てを受け、横浜地裁などが3~4月、復刻出版の禁止やリスト削除を命じる仮処分を決定。解放同盟側は4月、東京地裁に提訴した。一審判決までに5年余を費やした。

 原告は、日本社会には被差別部落出身者を忌避する感情が残っていると指摘。地名リストの出版やネット掲載が差別を助長し、原告の①プライバシー権②名誉権③差別されない権利や、④部落解放同盟が業務を円滑に行う権利の4つの権利を侵害する――と主張した。

 焦点のひとつは、地名リストの公表が人権侵害に結びつくかどうかだった。判決は、地名リスト自体は個人情報ではないものの、個人の住所や本籍と照合することで、被差別部落とされた地域にあるかどうかが容易にわかるとして、個人の住所や本籍の公表と同様のプライバシー侵害にあたると認定した。指宿弁護士は「部落差別の事件では初めてのことで、画期的な判断だ」と評価した。

被害の深刻さも認定 「同和問題が解消されたとはいいがたい」

 さらに判決は、被差別部落出身であることが知られると「結婚、就職の場面で差別を受けたり、誹謗中傷を受けたりするおそれがある。損失は深刻で重大なものであり、回復をはかることは不可能か著しく困難というべきだ」と被害の深刻さを認定。「同和問題に対する立法や行政の取り組みが進められてきた現在でも、なお同和問題が解消されたとはいいがたい」との現状認識を示した。

被告側主張退ける「正当な関心事と言いがたい」「公益目的でない」

 被告側は「地名リストの公開が禁止されれば同和地区の研究をする学問の自由や表現の自由が侵害される」などと主張したが、判決は「地名公開は社会的に正当な関心事とは言いがたい」と断じたうえ、被告がツイッターなどに挑発的な投稿をしていたことを指摘して「地名の公開が公益目的でないことは明白である」とも述べて、被告側の反論を退けた。

 東京地裁は、被告が2016年3月に東京法務局長から、地名の掲載をやめるよう諭す「説示」を受けていたことを踏まえ、「被告は3月末までには地名公開がプライバシーを違法に侵害するものと認識できた」として損害賠償責任を認めた。

 さらに、原告の部落解放同盟幹部が地裁に提出した陳述書を被告が無断でネット上に公開したことなどについても、原告の名誉感情やプライバシーを違法に侵害したと認定した。原告一人あたり5500円から4万4千円、計488万円余の損害賠償を被告に命じた。

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筆者

北野隆一

北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員

1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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