北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員
1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
出版禁止やリスト削除命じるも一部を除外。「差別されぬ権利」は認めず
しかし、判決で原告全員の権利侵害が認められたわけではない。
原告が主張した4つの権利侵害のうち、判決が認めたのは①プライバシー権②名誉権の2つのみ。③差別されない権利④解放同盟が業務を円滑に行う権利の2つは否定した。
また、被差別部落出身であることを自ら積極的に公開し、一般に広く知られていると地裁が認定した原告については「すでに広く知られた情報であれば、重ねて公表してもプライバシーが侵害されたとはいえない」として権利侵害を否定した。
これについては指宿弁護士が「自己情報の公表を自分でどうコントロールするかという問題だ。自分から名乗る『カミングアウト』をしている場合でも、他人から暴露される『アウティング』もしていいということにはならない」と批判した。
現在の住所や本籍が地名リストにない人については、過去の住所や本籍がリストにある場合でも「照合による調査が容易とはいえない」としてプライバシー侵害を否定した。
今回の訴訟では、「全国部落調査」に掲載された41都府県のうち、31都府県に住む原告が提訴したが、裁判中に原告が亡くなったり、原告のプライバシー権侵害が認められなかったりしたことなどを理由に、判決では6県分が出版禁止や削除の対象からはずされた。
判決を受けて、原告の西島藤彦・部落解放同盟書記長は「一部の県でも除外されることは了解できない。不服をもって控訴したい」と表明。片岡明幸・解放同盟副委員長は「われわれはリストそのものが差別を助長していると主張したのに、認められなかった」と語った。
河村弁護士は「今回の訴訟に先立って審理された仮処分をめぐる裁判所の決定のなかには、原告が主張した『差別されない権利』としての人格権を認めた判断もあった。しかし今回の地裁判決は、差別されない権利を認めず、プライバシー侵害だけで判断しようとして原告を細かくグループ分けした。このため論理構造に無理がある判決となった」と分析する。
原告代理人の山本志都弁護士は「差別のためにしか使えないような地名リスト全体を差別文書と認めなかったのは、司法の限界」と述べた。
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