【14】緊急事態全面解除――ワクチン接種と陰性証明で旅に出よう
2021年10月03日
新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」の対象地域が、10月1日から半年ぶりに全国でゼロになった。政府はこの解除決定にあわせて、飲食店やイベント、外出などの行動制限の緩和を段階的に進めると発表した。また、ワクチンの接種証明書やPCRなどの検査による陰性証明書を活用して、再び宣言を出すことになっても行動の規制緩和を続けることをめざすと表明した。
11月以降、我が国でもこうした緩和策をうまく運用していけるのだろうか。居酒屋、レストラン、観光地などでは緩和策への期待が膨らんでいる。本連載の主題である旅にとっても、根本にかかわる大きな条件となる。
ここでひとつ気になるのが陰性証明である。自費によるPCR等の検査について政府は現在のところノータッチの状況である。だが、取材してみると幾つかの問題点が浮かび上がってきた。
この夏、フランス在住の友人が来日。所用を終えて帰国する際に搭乗するエアラインから陰性証明の提示を求められ、ネット検索や友人、知人のホームドクターのクリニックなどに問い合わせをし、料金、予約状況など確認して無事検査を終えて帰国した。この時、一緒に探してみて気づいたことがあった。それは自費による検査費用が様々であるということだ。
医療についてはまったくの素人だし、ましてや検査費用の違いなど知る由もない。筆者がここで問題にしたいのは、検査機関や医療機関による検査費用の高い、安いではなく、また、それぞれがなぜ異なるのかということでもない。検査を定額あるいは保険適用、あるいは無料化にできないのか、という疑問である。
昨年来、緊急事態宣言などによって行動の制限が長期間に及ぶ中、こうした検査に関する問題点をよく耳にするようになった。
関西地方に住む自営業の方は、仕事で県境をまたぐ移動をしなければならず、「東京への出張が多いのですが、そのたびに自費のPCR検査を受けています」という。2回のワクチン接種は済んでいるものの、「無症状で、こちらの知らないうちにお客様である相手に感染させてはいけないので」と他人への感染防止のために自費で検査しているのだ。
この方の場合、自宅事務所から検査機関まで遠く、検査のたびに半日ほど時間を取られると言う。大都会ならいざ知らず、住む地域によって検査にかかる費用ばかりでなく多大な時間もかかるのが実情である。
また、東京都内の会社に通う30代の女性のように、職場でのPCR検査で自分が陽性であることが分かったという例もある。検査を受けるまでは全く症状がなく、運よく職場での検査で判明した。ワクチンも未接種であった。この方は「自宅で療養して無事、職場に復帰できました」と話す。本人も周囲も感染の兆候がわからなかったのだから、放置しておけば当人の重症化や経路不明による感染の拡大などのリスクが考えられるところで、接種が十分行きわたっていない段階では検査が極めて重要であることを実感する。
これらの事例からも、検査の利便性が今後強く求められると言える。
国民に寄り添い、安心、安全な暮らしを守ることを謳う政府であるならば、その具体的な施策のひとつに検査の費用についての見直し、検討が加えられてしかるべきだろう。
諸外国の例を持ち出すまでもないことだが、フランスやドイツでは10月中旬から検査を有料化する予定と伝えられるが(処方箋があれば従来通り無料)、これはワクチン接種を促すための処置で、それまでは感染の疑いが無い人でも無料で受けられている。
この例に倣えというのではなく、行動規制の緩和を実施するのであれば、ワクチン接種を希望者全員に行き渡らせることと並行して、陰性証明の取得に対しても何らかの対応策を取るべきではないかということである。
もうひとつ欧州の例を挙げると、JETRO(日本貿易振興機構)によれば、欧州委員会はEU及びその周辺諸国で7月1日より、「EUデジタルCOVID証明書」の運用を開始した。2回のワクチン接種、検査による陰性証明、新型コロナからの治癒の証明のいずれかががあれば参加国間を自由に移動でき、隔離も受けなくて済む。ビジネスや観光等による経済と人的移動の促進を目指している。また、EU加盟国で安価な検査ができるよう、欧州委が新たに1億ユーロを拠出すると報じている。
検査の重要性を認識した動きと言えるだろう。
我が国の検査への対応だが、厚生労働省の担当者に聞くと、「現在のところは、9月9日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部から発表された通りになっています」といい、今後についてはまだ分からないと言う。
この発表で言及した「ワクチン・検査パッケージ」について、対策本部は、参考資料を添えて詳述。「検査としては主にPCRを推奨」「民間の検査機関で受検した結果も認める」などとしながら、「検査費用には、基本的に公費投入はしない」と明記している。
ウィズコロナの時期を想定して、行動の規制緩和の方向を示しながらも、検査費用については現状のままとし、検討を進めていないのは誠に残念としか言いようがない。
参考資料では、検査の種類(PCR、抗原定性、抗原定量)ごとに、精度や所要時間、有効期限などの基礎情報を一覧表にまとめており、費用については、PCRが数万円~3千円、抗原定性が数千円、定量検査が数千円~1万円となっている。
先の事例でも分かるように、東京や大阪、横浜など大都市圏であれば検査機関も多く、予算に見合った検査機関も見つけやすいが、地方ではどうしても限られてくる。こうした不公平さを軽減させるためにも、少なくとも費用の無料化または低廉で統一した料金制、あるいは検査施設、検査の受付箇所の拡充などは喫緊の課題ではないだろうか。
新型コロナウイルス感染症対策本部も、この発表資料で、「希望する全ての国民がワクチンを接種した段階においても、疾患により接種を受けられない人や希望しない人が一定数存在し、ワクチンの予防効果にも限界があることから、基本的な感染防止策は維持する」と記し、日常の感染防止を呼びかけている。
であるならば、感染に不安を持ったり、他人への感染を防ぎたかったりする人が、希望すれば手軽に検査を受けられる体制作りが、早急に求められるのではないだろうか。
行動規制の緩和予定が示されたことで、旅行会社は早くも、10、11月の出発を想定して、ワクチンを2回接種した人や検査の陰性証明がある人を対象としたツアーを売り出している。
観光客を迎える宿泊施設でも行動規制の緩和に期待を寄せている。
新潟県のさる温泉地の宿では
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