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ウィズコロナ時代の安全な旅のために~自費PCR検査に統一基準と公費投入を

【14】緊急事態全面解除――ワクチン接種と陰性証明で旅に出よう

沓掛博光 旅行ジャーナリスト

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の全面解除を決定し、記者会見で説明する菅義偉首相の映像が大型ビジョンに映し出された=2021年9月28日、東京都新宿区

緊急事態を全国で解除、制限緩和策はうまくいくのか

 新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」の対象地域が、10月1日から半年ぶりに全国でゼロになった。政府はこの解除決定にあわせて、飲食店やイベント、外出などの行動制限の緩和を段階的に進めると発表した。また、ワクチンの接種証明書やPCRなどの検査による陰性証明書を活用して、再び宣言を出すことになっても行動の規制緩和を続けることをめざすと表明した。

緊急事態宣言が解除され、飲食店のテラス席に並ぶビール=2021年10月1日、大阪市北区
 その前提となるのが、希望者にワクチン接種が行き渡ることで、政府は11月ごろを想定している。ウィズコロナの時代へ向けて大きく舵を切る転換期を迎えたと言えるだろう。すでにEU諸国等では接種や陰性を証明する“ワクチンパスポート”を示すなどして外出の緩和が促進されている。

 11月以降、我が国でもこうした緩和策をうまく運用していけるのだろうか。居酒屋、レストラン、観光地などでは緩和策への期待が膨らんでいる。本連載の主題である旅にとっても、根本にかかわる大きな条件となる。

働く世代や若年層への接種機会を広げるための夜間接種に取り組む自治体が増えた。東京都港区の「週末ミッドナイト接種」会場でワクチン接種を受ける人たち=2021年9月17日、東京グランドホテル

検査による陰性証明書、日本の現状への疑問

 ここでひとつ気になるのが陰性証明である。自費によるPCR等の検査について政府は現在のところノータッチの状況である。だが、取材してみると幾つかの問題点が浮かび上がってきた。

 この夏、フランス在住の友人が来日。所用を終えて帰国する際に搭乗するエアラインから陰性証明の提示を求められ、ネット検索や友人、知人のホームドクターのクリニックなどに問い合わせをし、料金、予約状況など確認して無事検査を終えて帰国した。この時、一緒に探してみて気づいたことがあった。それは自費による検査費用が様々であるということだ。

東京都心にある民間のPCR検査センター。事前予約制だが、店舗の前には検査を待つ人の列ができていた=2021年8月6日、東京都新宿区
 これはPCR検査でも抗原検査でも同様だが、2万円近いところから5000円前後まで色々あり、医療機関によってこんなにも違うものかと驚いたことがあった。

 医療についてはまったくの素人だし、ましてや検査費用の違いなど知る由もない。筆者がここで問題にしたいのは、検査機関や医療機関による検査費用の高い、安いではなく、また、それぞれがなぜ異なるのかということでもない。検査を定額あるいは保険適用、あるいは無料化にできないのか、という疑問である。

緊急事態宣言解除後、最初の週末を迎えた岐阜県高山市の「古い町並」。コロナ前の人出にはまだ遠い=2021年10月2日、同市上三之町

高くて遠い日本の自費検査―EUは全域でデジタル証明導入

 昨年来、緊急事態宣言などによって行動の制限が長期間に及ぶ中、こうした検査に関する問題点をよく耳にするようになった。

 関西地方に住む自営業の方は、仕事で県境をまたぐ移動をしなければならず、「東京への出張が多いのですが、そのたびに自費のPCR検査を受けています」という。2回のワクチン接種は済んでいるものの、「無症状で、こちらの知らないうちにお客様である相手に感染させてはいけないので」と他人への感染防止のために自費で検査しているのだ。

 この方の場合、自宅事務所から検査機関まで遠く、検査のたびに半日ほど時間を取られると言う。大都会ならいざ知らず、住む地域によって検査にかかる費用ばかりでなく多大な時間もかかるのが実情である。

緊急事態宣言が解除された朝、大阪駅前を通勤などで行き交う人たち。ほぼ全員がマスク姿だ=2021年10月1日午前8時32分、大阪市北区

検査の利便と普及の重要性

 また、東京都内の会社に通う30代の女性のように、職場でのPCR検査で自分が陽性であることが分かったという例もある。検査を受けるまでは全く症状がなく、運よく職場での検査で判明した。ワクチンも未接種であった。この方は「自宅で療養して無事、職場に復帰できました」と話す。本人も周囲も感染の兆候がわからなかったのだから、放置しておけば当人の重症化や経路不明による感染の拡大などのリスクが考えられるところで、接種が十分行きわたっていない段階では検査が極めて重要であることを実感する。

 これらの事例からも、検査の利便性が今後強く求められると言える。

政府が自費のPCR検査へ公費を投入しない方針を続ける中で、感染が急拡大した8月には、全国各地の自治体が、帰省客や県外を往復した県民が無料や低額でPCR検査を受けられる会場を、空港や主要駅に一定期間設ける例が相次いだ。写真は東京から到着しPCR検査を申し込む人たち=2021年8月11日、山口県の山口宇部空港

EUは証明書で全域の移動自由。ビジネス・観光を促進

 国民に寄り添い、安心、安全な暮らしを守ることを謳う政府であるならば、その具体的な施策のひとつに検査の費用についての見直し、検討が加えられてしかるべきだろう。

 諸外国の例を持ち出すまでもないことだが、フランスやドイツでは10月中旬から検査を有料化する予定と伝えられるが(処方箋があれば従来通り無料)、これはワクチン接種を促すための処置で、それまでは感染の疑いが無い人でも無料で受けられている。

 この例に倣えというのではなく、行動規制の緩和を実施するのであれば、ワクチン接種を希望者全員に行き渡らせることと並行して、陰性証明の取得に対しても何らかの対応策を取るべきではないかということである。

欧州では夏のバカンスで観光が本格化した。検査やデジタル証明書が後押しした。アテネ中心部のパルテノン神殿を見学する観光客ら=2021年7月6日
パリのセーヌ川遊覧を楽しむ観光客ら=2021年6月24日

 もうひとつ欧州の例を挙げると、JETRO(日本貿易振興機構)によれば、欧州委員会はEU及びその周辺諸国で7月1日より、「EUデジタルCOVID証明書」の運用を開始した。2回のワクチン接種、検査による陰性証明、新型コロナからの治癒の証明のいずれかががあれば参加国間を自由に移動でき、隔離も受けなくて済む。ビジネスや観光等による経済と人的移動の促進を目指している。また、EU加盟国で安価な検査ができるよう、欧州委が新たに1億ユーロを拠出すると報じている。

 検査の重要性を認識した動きと言えるだろう。

【左】欧州連合(EU)の共通仕様で導入され、ベルギーで発行された「ワクチンパスポート」の紙バージョン。どのワクチンを、いつ、どこで接種したかといった情報が記載されている【右】スマートフォンの画面。QRコードで情報が確認できる

日本政府「検査費用に基本的に公費投入はしない」と明言

 我が国の検査への対応だが、厚生労働省の担当者に聞くと、「現在のところは、9月9日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部から発表された通りになっています」といい、今後についてはまだ分からないと言う。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の全面解除を決定し、質問に答える菅義偉首相(左)。隣は政府分科会の尾身茂会長=2021年9月28日、首相官邸
 同対策本部の発表資料を見ると、『ワクチン接種が進む中における日常生活回復に向けた考え方』のタイトルのもとに、「新型コロナウイルス感染症対策分科会が、飲食店の第三者認証やワクチン・検査パッケージ(ワクチン接種及びPCR等の検査結果を基に、他人に二次感染させるリスクが低いことを示す仕組み)などを活用した行動制限の緩和を提言している」と説明したうえで、感染拡大が心配される飲食、イベント、人の移動などの各分野における制限緩和の基本的な方向性を示している。今後、国民的な議論を踏まえて具体化を進めていくという。

 この発表で言及した「ワクチン・検査パッケージ」について、対策本部は、参考資料を添えて詳述。「検査としては主にPCRを推奨」「民間の検査機関で受検した結果も認める」などとしながら、「検査費用には、基本的に公費投入はしない」と明記している。

制限緩和を示しながら検査費用の検討進めぬのはなぜか

 ウィズコロナの時期を想定して、行動の規制緩和の方向を示しながらも、検査費用については現状のままとし、検討を進めていないのは誠に残念としか言いようがない。

 参考資料では、検査の種類(PCR、抗原定性、抗原定量)ごとに、精度や所要時間、有効期限などの基礎情報を一覧表にまとめており、費用については、PCRが数万円~3千円、抗原定性が数千円、定量検査が数千円~1万円となっている。

 先の事例でも分かるように、東京や大阪、横浜など大都市圏であれば検査機関も多く、予算に見合った検査機関も見つけやすいが、地方ではどうしても限られてくる。こうした不公平さを軽減させるためにも、少なくとも費用の無料化または低廉で統一した料金制、あるいは検査施設、検査の受付箇所の拡充などは喫緊の課題ではないだろうか。

政府が自費のPCR検査への公費投入をしない方針を続ける中で、緊急事態宣言が延長された9月上旬、JR博多駅前には、一部の都道府県から来県した人向けに無料PCR検査場が設けられていた=2021年9月9日、福岡市博多区

希望すれば手軽に検査できる体制が急務

 新型コロナウイルス感染症対策本部も、この発表資料で、「希望する全ての国民がワクチンを接種した段階においても、疾患により接種を受けられない人や希望しない人が一定数存在し、ワクチンの予防効果にも限界があることから、基本的な感染防止策は維持する」と記し、日常の感染防止を呼びかけている。

 であるならば、感染に不安を持ったり、他人への感染を防ぎたかったりする人が、希望すれば手軽に検査を受けられる体制作りが、早急に求められるのではないだろうか。

緊急事態宣言が解除された初日、再開した旭山動物園で、間近で見るキリンに釘付けになる子どもたち=2021年10月1日、北海道旭川市
緊急事態宣言が解除された1日、福岡・中洲名物の川沿いの屋台街では、これまで1~2軒だけ営業を続けていたが、この夜は7~8軒が軒を連ねた。約2カ月ぶりに開店したおでん屋台店主は「仕事ができないのは本当につらい。今後、普通に営業できれば」と話した=2021年10月1日

緊急事態宣言が解除されて初の週末。観光地・柳川の川下りには、ぽつぽつと客が訪れていたが「にぎわっているときの10分の1くらい」と関係者は話していた=2021年10月2日、福岡県柳川市

緩和で期待膨らむ観光地も事前検査を要望

 行動規制の緩和予定が示されたことで、旅行会社は早くも、10、11月の出発を想定して、ワクチンを2回接種した人や検査の陰性証明がある人を対象としたツアーを売り出している。

 観光客を迎える宿泊施設でも行動規制の緩和に期待を寄せている。

 新潟県のさる温泉地の宿では

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