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白鵬が突き付けた、伝統の定義という究極課題

~大相撲とは何か。不勉強の自称有識者は去って出直せ~

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

伝統文化継承者・白鵬が残した、20世紀的日本人への激痛

 横綱白鵬が引退、年寄間垣を襲名した。すでに36歳の幕内最古参、度重なるケガを克服しつつも、右膝がアスリートとしての限界を迎えていたとのこと、現役力士として来るべき時が来たと言うに過ぎない。コロナで出場禁止も含めた6場所連続休場ののち令和3(2021)年7月場所、14戦全勝の綱とり大関照ノ富士を倒して自らは全勝優勝を飾り、その同郷後輩・照ノ富士は奇跡の復活を遂げて横綱となった。表彰式中にNHK解説者北の富士勝昭氏が述べた「このまま辞めちゃうんじゃないの?」のとおり、出れば最強の力士のまま、史上最高とも言うべき潔い引き際となった。報道を通じて様々に棚卸しされている超絶の業績と、批判の対象にもなった張り手やかち上げ等の超絶の技術力、そして全力士の模範となる準備運動や体重管理等の超絶の自己管理、を体現した。それらが報道される過程で、江戸時代以来のあらゆる大力士たちの全体像を顧みる機会を作り出し、それらを何もかも更新した、という足跡は十何年、何十年もして世の人々が驚愕していくことだろう。

元横綱白鵬(左)と宮城野親方拡大引退会見を終えた元横綱白鵬(左)と宮城野親方=代表撮影

 そしてモンゴルの「労働英雄賞」を受賞してなお日本に帰化してなしえようとした、日本の伝統文化継承者としての功績はさらに大きい。そのことを論じる報道、とくに取材経験豊富な相撲担当記者の論(例:日刊スポーツ内2021.9.28~連載「大横綱白鵬翔」)にも見られるように、「大相撲とは何か」「大相撲の歴史伝統とは何か」「大相撲観点での日本と世界とは何か」「大相撲のなしうる社会貢献とは何か」について十分な知識と理解、おそらく日本相撲協会幹部や横綱審議委員会委員の誰よりも優る知識と理解、に基づいた発言と行動を提起し、たびたびの懲戒処分を受けてまで足跡を残す資格を持ちえた、稀有な存在だった。この全体像を理解して多くを語らずに上手に振る舞った師匠・宮城野親方(元幕内竹葉山)の支援も大きかったと思われる。

 それらのことは、すでに拙稿「20世紀的日本人よ。あなたは白鵬に完敗した ~謎の国粋主義的日本観をきっぱり捨てるチャンスは今だ~」で、数少ない例示ながら存分に論証し終えた。デーモン小暮氏の指摘(2021年09月28日朝日新聞)のとおり「日本文化の奥の奥の美徳のようなものを完全には理解することはできなかった」、言い換えれば「正確な知識と理解に基づいていないまま日本文化・伝統を語る日本人に相対して、何を穏当かつ効果的な言動とすべきかの完全な解答を出せなかった」ということ、それが白鵬本人の「周りの皆さんや横綱審議委員会の先生方の(指摘する)横綱相撲を目指したこともあったが、期待に応えることができなかったかもしれない」(2021年10月01日引退記者会見)ということなのだろう。

 そして残されたのは、白鵬と対等の論証をするにはあまりに知識と理解の足りないまま、声高に「ノーモア白鵬、ノーモアガイジン」を叫んできた批判者たち。何よりも、日本相撲協会理事会が白鵬引退・年寄間垣襲名の承認条件とした「先輩の指導に従って忠実に協会の業務を遂行し、相撲界の習わしを守っていく、という誓約書」(各種報道要約)、また横綱審議委員会が発した「目に余る言動に対して都度反省を求めてきた。十分に反省し相撲道の良き伝統を伝えてほしい」「横審の指摘事項を弟子に指導するとよい」(2021年9月27日矢野委員長記者会見)が、その脅威と劣位を認めたことを明示しており、その上で「あまりにも影響力の強すぎる協会末端職員」に対する指揮命令遵守を念押ししている。白鵬も宮城野親方も協会員としてやりたいこととの取引条件として承諾したのだろうが、本人の取り上げ方によっては法的問題、国際問題、のレベルのハラスメントとなる可能性がある。

太刀持ちをする炎鵬拡大白鵬(写真左)の土俵入りで、太刀持ちをする炎鵬(2019年12月)

 なお白鵬はすでに内弟子として3人の幕内力士(石浦、炎鵬、引退した大喜鵬)を宮城野親方ともども育て上げており、明治以降このような現役力士も例を見ない。白鵬の教えを得た彼らが何か暴挙の言動をとったとは聞かない。そして宮城野親方定年退職(2022年8月末)にともなって必然的にその人材とノウハウを継承することになる。

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筆者

倉沢鉄也

倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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