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五輪直後の世界体操が目指す新たな価値~社会貢献と産業の創出を

観客フル収容―コロナと向き合うスポーツ界の青写真を描く大会に

増島みどり スポーツライター

拡大世界体操と世界新体操の開催を知らせる広告=2021年9月17日、北九州市小倉北区のJR小倉駅
 今夏の東京五輪・パラリンピックの終了からわずか1カ月半、その熱気と余韻が残る日本で再び、競技の頂点を競う「世界体操」(10月18日~24日、北九州市立総合体育館)が、59カ国から、約400人が出場して行われる。団体総合を含め4年に1度の世界王者を決める五輪と、技の進化の最高峰ともいえる世界選手権が同じ年に実施されるのは、1903年から118年の歴史を持つ同選手権でも異例だ。また「世界新体操」(27日~31日、西日本総合展示場)が同じ都市で、同時期に開催されるのも史上初となる。

拡大東京五輪の体操男子団体で、最後の鉄棒の演技を終えた橋本大輝(右)と抱き合って喜ぶ、銀メダルを獲得した日本チームの(左から)谷川航、北園丈琉と萱和磨=2021年7月26日、有明体操競技場、

コロナ禍で国内スポーツ初の観客制限撤廃 綿密に準備

 昨年、新型コロナウイルスの世界的パンデミックによって、五輪だけではなくほとんどの国際競技会が中止、延期に。体操の世界選手権は五輪のない年に開催され、20年の東京五輪翌年、21年にコペンハーゲン(デンマーク)で行われる予定だった。

拡大体操と新体操の世界選手権の北九州市での開催が決まり、記者会見する国際体操連盟の渡辺守成会長(右)、北九州市の北橋健治市長=2020年11月8日、東京・国立代々木競技場
 しかしコロナ対策が整わない点や経済的な苦境を理由に、コペンハーゲンが21年大会を返上。22年はリバプール(イギリス)、23年はアントワープ(ベルギー)での開催が決まっているため、21年の代替地がなかなか決まらなかった背景がある。

 そうした中、昨年11月にFIG(国際体操連盟)の渡辺守成会長(62)は、自身の出身地である北九州での開催を決定。以降、東京五輪での前例や、北九州市、福岡県独自の感染予防策を検討する「新型コロナウイルス対策会議」を定期的に開いて、感染状況と並行しながら開催準備を進めて来た。

 このほど、政府の行動制限緩和のための実証実験「ワクチン・検査パッケージ」の導入によって、満員での開催を公表(約2500人)し、チケット販売を始めた。万単位で収容するJリーグ、プロ野球との観客数には大きな差があるものの、コロナ禍から続いた収容人数の制限を撤廃するのは国内スポーツイベントでは今大会が初めてとなる。

内村航平「ありがたい」に込めた思い

拡大東京五輪の体操・男子予選で鉄棒の演技を終えた内村航平(右)、鉄棒の演技でバーをつかみ損ねる内村(左)=2021年7月24日、有明体操競技場
 3歳まで北九州で育ち、東京五輪での鉄棒落下から本格的な復活を目指す内村航平(32=ジョイカル)は、2日のオンライン会見でこう話した。

 「見てもらって、感じてもらうのがスポーツの価値。選手としてはありがたい」

 五輪、パラリンピックとも史上初の無観客で実施され、選手は開催そのものへの喜び、周囲への感謝を口にした一方で、どんな時でも会場に足を運んで声援をくれるファンや、家族、友人に4年に1度の特別なパフォーマンスを会場で披露できないもどかしさ、虚しさも味わったはずだ。

 内村の「ありがたい」には、今大会が、今後のスポーツ界に示す可能性や、アスリートとファンが共有するスポーツの原点への思いが込められているようだ。

 大きな節目となる五輪を終えたにもかかわらず、選手たちが高いモチベーションで今大会に臨もうとするのも、「応援される側とする側が感動を共有する」という喜びの力だろう。五輪で男女で計5つのメダルを獲得した日本選手たちの成熟した、芸術的な演技を再び日本で観戦できる価値は高い。

拡大北九州市立総合体育館

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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