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ウィシュマさん民事訴訟弁護団・児玉晃一さんに聞く入管・難民問題(上)

人を傷つけてもいないのに、無期限に自由を奪われる。もし、あなたなら?

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

バブルがはじけると手のひらを返して

 ――その子どもたちもオーバーステイだったのでしょうか。

 はい。1990年代くらいは、日本はすごくきやすかったんです。イランやバングラデシュなどから、短期滞在、いわゆる観光ビザがとれる日本にきて、期間がすぎてしまった人が何十万人もいた。当時は警官にみつかっても、社長さんに電話して「うちでちゃんと働いていますよ」といってくれれば「気をつけてね」と帰されていた。でも、バブルがはじけて、労働力が必要ないということになると、手のひら返して摘発するようになったんです。

 その家族も見つかってしまい、一家全員で収容されることになりました。彼らはイランで迫害を受けて日本にきたのですが、難民と認定されなくてもふつうに生活できていれば問題はないので、申請していなかった。そこで、いっしょに難民申請をしました。

拡大東京出入国在留管理局=東京都港区、朝日新聞社ヘリから

移動は権利、本来悪いことではない

 ――入管に収容されているのは、どんな人たちでしょう。オーバーステイが多いのですか。

 「退去強制事由」といって、本国に強制送還になる事由が定められているんですが、それに該当する人が収容されています。入管の統計によると、退去強制手続をとられている人の9割くらいがオーバーステイ。偽造パスポートなどで上陸しようとし、入管のゲートを通るところでばれてしまうと、入管のいうところの「不法入国」。ゲートを越えてしまうと「不法上陸」になります。

 入管は「不法滞在」「不法上陸」「不法入国」という言葉を使いますが、国連も、こういうものは犯罪ではないという意見書を出している。私たちはまとめて「非正規滞在」という言い方をしています。

 ――「オーバーステイ」は期限をすぎて滞在しているという意味ですね。それを「不法滞在」と呼ぶといかにも「犯罪」という語感があります。でも、収容されている人の多くは、だれかを傷つけるような罪を犯したわけではない。だいたい、小学生が「犯罪者」であるわけがないし。

 どこかからどこかに移動するのは、人を殺したり物をとったりするのとぜんぜん違う行動で、本来、悪いことでもなんでもない。子どもが産まれると最初は動けないけれど、はいはいをしたり、立ったりすると、親は大喜びしますよね。言葉もしゃべれないうちから移動するので、「移動の自由」は「表現の自由」よりも前に獲得する根源的な権利だと思います。

 国家があって国境がある以上、完全にフリーではないのはわかりますけど、目くじら立てるような悪いことではないと確信しています。

「親子引き離し」も「子どもの収容」も入管の一存で

 ――いまは子どもは入管に収容せず、親が収容されたら児童相談所に入れるのだとか。それでも親子を引き離すわけです。アメリカのトランプ政権が移民の親子を引き離して収容し、批判を浴びましたが、日本ではいまも親子引き離しが起き続けているということでしょうか。

 起きうる状況にあるし、起きているという話は聞きます。でも、正確には入管に聞いてもらうしかない。本来なら法律で、こういう場合は収容できると定めるべきなのに、入管の運用でいかようにでもできてしまう。だから、いつまた子どもが収容されたって、全然おかしくないんです。

 ――入管は収容した人に対して帰国を求めます。それに応じず、長期収容されているのはどういった方々でしょう。どんな理由で帰らなかったり、帰れなかったりするのでしょうか。

 入管庁の資料によると、難民申請中だったり、日本に家族がいたりするケースが多いですね。入管庁や法務省の人は、難民申請を濫用して就労目的でずるずる残ろうとしていると考えるんでしょうけど、収容されると働けないので、だいたいは諦めて帰ります。ずっと残っている人は、家族がいたり、本国に帰ったら身の危険があったりする人ばかり。小さいころに親につれられて日本にきて、本国には面倒をみてくれる家族も友達もおらず、どうしようもなくなる若者もいます。


筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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