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ウィシュマさん民事訴訟弁護団・児玉晃一さんに聞く入管・難民問題(上)

人を傷つけてもいないのに、無期限に自由を奪われる。もし、あなたなら?

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 入管問題とは何か? 私たちはどうすればいいのか?
 児玉晃一弁護士に聞きました。児玉さんは長年にわたって、入管に収容された人をはじめ外国人の人権を守るために活動してきた方です。名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんがなくなった問題で、遺族らが近く国を相手取って起こす民事訴訟の弁護団事務局長も務めています。
 ウィシュマさんがなくなる前の監視カメラの映像には、衰弱して体が動かなくなり、呼びかけても応えない様子が映っているそうです。そんな状態になってもなかなか救急車を呼んでもらえず、ウィシュマさんは33歳の若さで命を落としました。
 このように適切な医療が提供されないことなど、さまざまな問題が指摘されている日本の入管。いちばんの問題は「全件収容主義」だと、児玉さんは指摘します。
 刑事事件なら逃亡の蓋然性などを考慮し、逮捕の必要があるかどうかを検討します。しかし入管は、そうしたことを考慮することなく、裁判所の判断もあおがずに人を無期限に収容できてしまう。だれかを殺したり、傷つけたりしたのではなく、日本に在留する資格がないというだけで。
 論座はこの問題を考えるため、「ウィシュマさんを死なせた日本社会~隣人を閉じ込め、難民を閉め出す私たち」というオンラインイベントを10月8日に開催し、児玉さんにもご出演いただきました。ウィシュマさんの監視カメラの映像の話をふくめ、イベントの概要は近く公開する別の記事でご紹介します。そちらもあわせてお読みください。
 児玉晃一(こだま・こういち) 弁護士
 1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業。91年に司法試験に合格し、94年に弁護士登録。2009年、マイルストーン総合法律事務所を開設。東京弁護士会外国人の権利に関する委員会委員(元委員長)、全国難民弁護団連絡会議世話人などを務める。

驚いた小学生の収容、問題は「全件収容主義」に

論座LIVE TALK「ウィシュマさんを死なせた日本社会~隣人を閉じ込め、難民を閉め出す私たち」に出演する児玉晃一さん=2021年10月8日、東京・築地の朝日新聞東京本社
 ――入管問題にとりくむきっかけは、小学6年生と3年生のイラン人の子どもたちが入管に収容されたことだそうですね。

 弁護士になって2年目でした。そんなことが本当にあるのかとものすごく驚いて。少年事件でも、鑑別所に入ったりするのはだいたい中学生以上ですよね。にわかに理解できなかった。根拠を調べたら「全件収容主義」でした。

 刑事事件だったら、容疑があるというだけではなく、逃亡や証拠隠滅の蓋然性を考慮して、逮捕するかどうかを決めます。しかし、入管の場合は逃げるかどうかといったことを一切考慮せず、在留が認められる期間をすぎた「オーバーステイ」などの疑いがあれば拘禁できる。この全件収容主義がいちばんの問題です。小学校に通っているんだから逃げるなんて考えられないのに、収容できてしまうんですよ。

バブルがはじけると手のひらを返して

 ――その子どもたちもオーバーステイだったのでしょうか。

 はい。1990年代くらいは、日本はすごくきやすかったんです。イランやバングラデシュなどから、短期滞在、いわゆる観光ビザがとれる日本にきて、期間がすぎてしまった人が何十万人もいた。当時は警官にみつかっても、社長さんに電話して「うちでちゃんと働いていますよ」といってくれれば「気をつけてね」と帰されていた。でも、バブルがはじけて、労働力が必要ないということになると、手のひら返して摘発するようになったんです。

 その家族も見つかってしまい、一家全員で収容されることになりました。彼らはイランで迫害を受けて日本にきたのですが、難民と認定されなくてもふつうに生活できていれば問題はないので、申請していなかった。そこで、いっしょに難民申請をしました。

東京出入国在留管理局=東京都港区、朝日新聞社ヘリから

移動は権利、本来悪いことではない

 ――入管に収容されているのは、どんな人たちでしょう。オーバーステイが多いのですか。

 「退去強制事由」といって、本国に強制送還になる事由が定められているんですが、それに該当する人が収容されています。入管の統計によると、退去強制手続をとられている人の9割くらいがオーバーステイ。偽造パスポートなどで上陸しようとし、入管のゲートを通るところでばれてしまうと、入管のいうところの「不法入国」。ゲートを越えてしまうと「不法上陸」になります。

 入管は「不法滞在」「不法上陸」「不法入国」という言葉を使いますが、国連も、こういうものは犯罪ではないという意見書を出している。私たちはまとめて「非正規滞在」という言い方をしています。

 ――「オーバーステイ」は期限をすぎて滞在しているという意味ですね。それを「不法滞在」と呼ぶといかにも「犯罪」という語感があります。でも、収容されている人の多くは、だれかを傷つけるような罪を犯したわけではない。だいたい、小学生が「犯罪者」であるわけがないし。

 どこかからどこかに移動するのは、人を殺したり物をとったりするのとぜんぜん違う行動で、本来、悪いことでもなんでもない。子どもが産まれると最初は動けないけれど、はいはいをしたり、立ったりすると、親は大喜びしますよね。言葉もしゃべれないうちから移動するので、「移動の自由」は「表現の自由」よりも前に獲得する根源的な権利だと思います。

 国家があって国境がある以上、完全にフリーではないのはわかりますけど、目くじら立てるような悪いことではないと確信しています。

「親子引き離し」も「子どもの収容」も入管の一存で

 ――いまは子どもは入管に収容せず、親が収容されたら児童相談所に入れるのだとか。それでも親子を引き離すわけです。アメリカのトランプ政権が移民の親子を引き離して収容し、批判を浴びましたが、日本ではいまも親子引き離しが起き続けているということでしょうか。

 起きうる状況にあるし、起きているという話は聞きます。でも、正確には入管に聞いてもらうしかない。本来なら法律で、こういう場合は収容できると定めるべきなのに、入管の運用でいかようにでもできてしまう。だから、いつまた子どもが収容されたって、全然おかしくないんです。

 ――入管は収容した人に対して帰国を求めます。それに応じず、長期収容されているのはどういった方々でしょう。どんな理由で帰らなかったり、帰れなかったりするのでしょうか。

 入管庁の資料によると、難民申請中だったり、日本に家族がいたりするケースが多いですね。入管庁や法務省の人は、難民申請を濫用して就労目的でずるずる残ろうとしていると考えるんでしょうけど、収容されると働けないので、だいたいは諦めて帰ります。ずっと残っている人は、家族がいたり、本国に帰ったら身の危険があったりする人ばかり。小さいころに親につれられて日本にきて、本国には面倒をみてくれる家族も友達もおらず、どうしようもなくなる若者もいます。

収容に期限がない、やることがない、希望をもてない

 ――入管の収容施設は刑務所よりひどいという人もいます。どんなところなのでしょうか。

 施設の設備などが刑務所より悪いとは思いませんが、刑務所なら無期懲役は別として、「懲役何年」などと上限が決まっているから、あと何年頑張ればいいとかわかりますよね。でも、入管からはいつ出られるかがわからない。これは本当にきついと思います。

 それから、やることがない。刑務所なら刑務作業があって、本来なら働かなくていい禁錮刑の人も志願して仕事をさせてもらうことが多いと聞きます。人間、何もしないでずっとぼーっとしているのは苦痛なんです。

 しかも、刑務作業を一所懸命頑張れば、たとえば手紙を出せる回数が増えるとか、面会できる回数が増えるとか、メリットが出てくる。模範囚だったら仮釈放が早まる。だから、やりがいがあるけれど、入管にはそれもありません。

 あとはやっぱり、自分で納得できないことですね。人を殺したり物を盗んだり、悪いことをして入らなくちゃいけないのなら、ある程度は納得いくと思う。でも入管の場合、とくに難民申請者だったら、「自分は助けを求めにきたのに、なんでここにいなくちゃいけないんだ」と感じ、納得できない。

 ――なんらかの罪を犯し、刑務所で刑期を終えたあと、入管に収容されている人もいます。

 彼らにしても、「おつとめ」は果たしているわけです。日本人だったら、刑期を終えれば外に出て働けるのに、外国人というだけで、いつ出られるかわからないところに閉じ込められる。納得できないのは当然じゃないでしょうか。そういう意味で、精神的な面で刑務所よりきついと思いますね。

「家族が死にそう」 追い返された救急車

記者会見するウィシュマ・サンダマリさんの妹・ポールニマさん(右から2人目)、児玉晃一弁護士(左)ら=2021年10月5日、東京・永田町

 ――ウィシュマさんの場合は、適切な医療を受けられませんでした。

 医療体制の不備は前々からいわれているところです。救急車を追い返したこともあります。収容されている方がご家族に体調が悪いことを伝え、ご家族が病院につれていくよう求めても入管が応じなかった。このままでは死んでしまうかもしれないと救急搬送を依頼し、救急車が2回、行ってくれたのですが、入管は2回とも本人に会わせないまま帰してしまった。

 命を預けているのに、ちゃんと対応してくれない。できないなら収容しなければいいのに。

 ――希望をもてない環境におくことで、日本にいるのを諦めさせ、帰国させる目的があるのでしょうか。

 前々からそうだと思っていましたけど、ウィシュマさんの最終報告書に「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」と書いてありました。収容は本来、そういうことのためにするものではありません。

古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(中央)と妹たち=遺族提供

「塀の外にでる」以外の自由がある英国の施設

 ――日本の入管施設と諸外国の施設を比べるとどうなんでしょうか。

 イギリスの入管施設を、2012年と2014年に見学させてもらいました。半年以上いる人はほとんどおらず、収容期間も短い。それから根本的に違うのが、懲罰や刑罰を加えるのではなく、あくまで強制送還のための施設だということが基本理念にすえられ、その理念が具体的な処遇のあり方にまで浸透しているです。

 逃げたら困るので、塀から外に出る自由はない。けれど、それ以外の自由を制限する根拠は基本的にない。だから、携帯電話で電話できますし、パソコンも使えますし、遮蔽板もないところで面会できる。びっくりしたのはゲームセンターみたいなのがあるんですね。エレキギターやドラム、キーボードなどでバンドもやれる。

 家庭科の教室みたいなところで、自炊して料理もつくれる。材料も入管が用意してくれて、自分たちでお金を払わなくていいんです。それで同国人どうしでカレーをつくったりして、みんなでわいわい食べる。調理中はふつうに包丁も使います。日本の入管ではとうてい考えられません。そんなものを持たせたら自分たちに襲いかかるとか、収容者どうしでけんかをして殺したらたいへんだとか考えるから。

 ジムもある。ダンベルやバーベルが鎖もついていない状態で置いてあって、ふつうに使えるんです。いっしょに見学に行った尊敬する友人の弁護士ですら「危なくないんですか?」とついポロッといって、案内してくれた所長さんに「殺そうと思えば鉛筆一本でも殺せる。だけど信頼していれば、たとえ彼が拳銃をもっていても何の心配もない。ダンベルに鎖をつけていないと驚かれることが驚きだ」というようなことを言われまして。

 異質なものに対する恐怖感は、どこの国でも、だれでももっていると思います。でも、抑圧するのではなく信頼関係をもつことが施設の運営をスムーズにやることにつながるので、プロとしてそういう接し方をしているんだと思います。ぜひ日本の入管の人に見にいってもらいたいですね。

仮放免では働けず、医者にかかるのも難しい

 ――入管での収容を一時的に解かれて「仮放免」されても、働くことは認められていません。健康保険にも入れないから医者にかかるのも難しい。どうしてこんな仕組みにするのでしょうか。

 やっぱり、帰国させるために

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