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無理筋の設定で迷走したままだった「おかえりモネ」

震災が舞台のドラマの説得力を「その街のこども」と「日本沈没」との比較から考える

川本裕司 朝日新聞記者

阪神大震災が舞台「その街のこども」の説得力―誰のせいにもできない

拡大NHKの阪神・淡路大震災15年特集ドラマ「その街のこども」。森山未來演じる中田勇治と佐藤江梨子演じる大村美夏(番組HPから)
 子どものときに阪神大震災を体験した十年余り後の若者2人を描いたNHKドラマ「その街のこども」が、2010年に放送された。脚本を手がけた渡辺あや氏に、この年インタビューしたときの言葉が思い起こされた。

 渡辺氏は震災について、「まだ誰も総括していない。戦争とちがい、どう捉えていいかわからない。災害なので、誰のせいにも出来ない」と語っていた。後に朝ドラ「カーネーション」、近作「今ここにある危機とぼくの好感度について」と常に手垢のついていない作風で余韻を残す脚本家の背骨を、発言からすでにうかがわせていた。

 阪神大震災のとき夫の仕事の関係でドイツにいた渡辺氏は、兵庫県西宮市の実家が半壊。「その街のこども」は、追悼のつどいがある前日の1月16日夕、神戸市へ久々に戻った男女2人が出会い、翌朝まで神戸をさまよい、思いを語り合っていくというあらすじだ。

 実際に神戸市東灘区で震災を体験した森山未来と佐藤江梨子が、説得力をもって演じた。

拡大百音は気象予報士試験に合格したが、思いを周囲に話せずにいた。森林組合での仕事ぶりが認められ、夢があるなら進むよう伝えられると、組合を辞めて東京で気象にまつわる仕事を目指すことを打ち明ける(第45回、番組公式HPから)

リアリティーとは。被災者と支援者との関係では明確な主張が

 ドラマはフィクションだから、設定は自由だ。ただ震災後に、「津波を見ていないから」と半ば責めるような台詞が発せられることにいまひとつリアリティーを感じない。震災のとき重大な被災地にいなかったことを、ひけめに感じる人はどれくらいいるのだろうか。

故郷のコミュニティFMで気象情報を伝え始めたころ、実家に幼なじみが集まり近況を語った。なぜ戻ってきたのかと問われた百音が地元のために働きたかったからと答えると、亮は「きれいごとにしか聞こえない」と突き放した(第98回、番組公式HPから)拡大故郷に戻った百音の実家に幼なじみが集まった。なぜ戻ってきたのか問われた百音が地元のために働きたかったからだと答えると、亮は「きれいごとにしか聞こえない」と突き放した(第98回、番組公式HPから)
 未知からは「お姉ちゃんはいいね、やりたいことを見つけて仕事にして、好きな人と仲よくて……。順調じゃん、全部持ってんじゃん、私の気持ちなんかわかるわけ?」とも突きつけられる。地域に貢献したいと故郷に帰ってきたことに、漁師となった元同級生の及川亮(永瀬廉)に「きれいごとにしか聞こえない」と言われる。

 本音をぶつけるというより、毒を吐くような言葉に対し、他者に思いを寄せる百音は寛容に受け止めるが、心の傷をえぐっていくような展開がずっと続いた。

 安達氏は被災者とボランティアら支援者の関係について、脚本で百音に語らせている。

 百音の母から勉強を教わった中学3年の少女が「助けてもらってばかりで悪いから」と話すのに対し、百音は「助けられているようで、こちらも助けてもらっている。助けてばかりだったとしても、それはそれでいい世の中の方がいいんじゃないか」と返す。気仙沼にあいさつに行く恋人の菅波光太朗(坂口健太郎)に、「助けてください、といわれるのも幸せなもんですね」と言った。

拡大母の元教え子の中学生あかりとの交流が続いたある日、勉強を教わることを、「助けてもらってばかりで悪いから」と遠慮しようとするあかりに、百音は「助けてるようで、こっちも助けてもらってるから」と話しかけた(第105回、番組公式HPから)
拡大恋人の菅波が百音との電話で、両親への結婚の挨拶について相談。「僕ひとりで乗り切れるような案件じゃないので助けてください」と伝えられた百音は、「助けます。いや、助けてくださいと言ってもらえるのもすごく幸せなもんですね」と応じた(第106回、番組公式HPから)

 助けられる方が負担を感じるという一方的な関係ではない、ことをはっきりと伝えている。震災時の不在に対する脚本家のメッセージが最後に示されるのかもしれないが、まだ見通せない。

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者

朝日新聞記者。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを歴任。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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