2021年10月21日
10月17日に放送されたNHK「日曜討論」での甘利明・自民党幹事長の発言が話題になっている。
甘利氏は「世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターも量子コンピューターも全部、日本の発明です」と発言。これに続けて「技術では勝っているのに、ビジネスで負けている。これを技術で勝っているからビジネスでも勝つようにしていくことが大事」と主張したというのである。
一番のツッコミどころは「スマホは日本の発明」という部分だろう。一体何の機種を指してそう言っているのかがさっぱり分からない。
まず、かつて1980年代中盤から2000年代にかけて「PDA」と呼ばれるデバイスがあった。PDAは電子手帳のようなガジェットで、日本だとシャープの「ザウルス」が有名だろうか。中には携帯電話機能を搭載したPDAもあり、このあたりがスマホの原型とも言えるものだろう。
しかし、当時のPDAはまだまだ機能性も低く、電子ガジェット好きな一部の好事家に利用される程度の普及に留まっていた。
この状況を一変させたのが、アップルによる「iPhone」の発表である。2007年1月、スティーブ・ジョブズは「電話を再発明する」として、多くの人たちに親しまれていた「携帯電話」という存在に、PDAではない「新しい電話」としてのアプローチで切り込んでいった。
iPhoneは世界中で広く受け入れられ、日本でも2008年に「iPhone 3G」をSoftBankが取り扱うようになるとスマホが流行し始めた。2000年代こそ「日本人にとっては日本の携帯電話の方が便利で需要がある」と、スマホはニッチなまま終わると思っていた人もいたが、大量のアプリが生み出すその利便性により、一般層にも普及したのである。
と、スマホの歴史を簡単になぞってみたが、どう考えても「スマホは日本の発明」という発言の根拠は見つからない。
もしそれがあるとすれば「スマホの技術を日本が支えている」とは言えるだろうか。しかし、甘利幹事長の言う「日本は技術で勝っている」も、もはや過去の話である。
確かにかつて、iPhoneの部品の多くが日本製だった時代もあった。
しかしそれは昔の話。今でも日本製の部品が使われている部分もあるが、台湾やアメリカ、中国、韓国などが台頭してきてスマホ文化を技術から支えているのである。
部品はもちろん、製品としてのスマホも、米国のアップルはもちろん、韓国のサムスン、中国のシャオミなどが強く、日本メーカーの存在感は日本以外では極めて薄い。デジタル市場では技術においても製品においても台湾や韓国、そして中国の存在感が大きくなってきており、日本の先細りは明白である。
というわけで、甘利幹事長の言葉はまったくと言っていいほど日本の実態を表していない。
にもかかわらず、どうしてあのような発言をしたのだろうか。僕には単純に「モノを知らないだけ」とは考えづらいのだ。
僕が想像するに、甘利幹事長は日本の凄さを取り上げることで、愛国をアピールしたかったのではないか。
いわゆる「日本スゲー」である。
「日本スゲー」は、おそらく
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