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新庄剛志・新監督に感じる不安とリスク──PR的には大成功だが……

生島淳  スポーツ・ジャーナリスト

 プロ野球の日本シリーズが始まってからも、「新庄劇場」の方が目立っているんじゃないかと思ってしまう。

 日本ハムが、11月4日に札幌市内で新庄剛志新監督の就任記者会見を行うと、北海道だけではなく、テレビのワイドショーが「新庄色」に染まった。

 テレビのニュース、情報系の番組では「きょうのBIG BOSS」といったコーナーが始まってしまったほどだ。

就任会見のファッションから始まった「新庄劇場」=2021年11月4日監督就任会見から始まった「新庄劇場」=2021年11月4日

 新庄が起こす「風」はあらゆるものを吹き飛ばしている。

 今季、日本ハムで明るい話題といえば、侍ジャパンにも選ばれたルーキー、伊藤大海の活躍くらいで、チーム成績はシーズンを通して低迷し、さらには中田翔のチームメイトへの暴行問題、シーズン中の巨人への電撃トレードと、ファンはどんよりとしたシーズンを耐えなければならなかった。

 そこへやってきたのが新庄だ。就任が発表されると淀んだ空気は一気に吹き飛んだ。これだけの瞬間最大風速を起こせる野球人が、いまどれだけいるだろうか。ちょっと想像がつかない。

日本ハム・新庄剛志新監督の名刺日本ハム・新庄剛志新監督の名刺。肩書は「BIGBOSS」

 ただし、この日本ハムの動きは、現在のプロ野球界の「監督人事」の流れとは、一線を画している。私は、そこに不安を感じている。

「監督候補生」が二軍で修業を積む流れ

 いま、プロ野球界では、二軍監督を経験してから一軍監督に昇格することがひとつの流れになっている。

 2021年のセ・パ両リーグの優勝チームの監督は、ふたりとも二軍監督を務めていた。

 ヤクルトの高津臣吾監督は、2017年から二軍を預かり、打者では村上宗隆、塩見泰隆、投手では高橋奎二、原樹里らを育て、2020年から一軍監督となった。

 オリックスの中嶋聡監督も2019年から二軍監督を務め、2020年8月に一軍監督代行として指揮を執りはじめ、シーズン終了とともに正式に一軍監督に就任した。

ヤクルトの高津臣吾監督セ・リーグで優勝、日本シリーズ進出を決めたヤクルトの高津臣吾監督
日本シリーズ進出を決め、胴上げされるオリックスの中嶋監督ヤクルトと同じく前年最下位からリーグ優勝したオリックスの中嶋聡監督

 二軍で若手の育成現場に携わることについて、高津監督はこう話す。

 「ファームでは、プロに入りたての選手の『素』の力を間近で見られるのは大きいよね。プラスマイナス両方のクセ、性格、いろいろなことを把握できるから」

 二軍で監督と選手が信頼関係を築いておけば、一軍に上がってからもコミュニケーションが取りやすく、監督の意図も浸透しやすい。

 そして、二軍監督は「数年後の一軍の理想形」をイメージしながら育成に携われる夢のある仕事だ、と高津監督は話していた。

 各球団とも、この人事の効果には気づいており、来季からはソフトバンクが工藤公康監督に代わって、藤本博史二軍監督が一軍に昇格し、指揮を執ることになる。

 球界全体を見渡せば、今季の二軍は巨人が阿部慎之助、西武は松井稼頭央といった、かつての球団の顔が二軍監督を務めており(松井は来季から一軍ヘッドコーチに)、球団側が選手だけではなく、監督を育成する意向を強めていることがハッキリしている。

 「監督候補生」がなぜ二軍で修業を積むかというと、

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