メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

無期懲役は、そう簡単に仮釈放されない極めて重い刑罰だ

元看護師の点滴連続中毒死事件判決をめぐって

赤木智弘 フリーライター

 2016年に横浜市の病院で、点滴に消毒液を混入させて入院患者3人を中毒死させたなどとして殺人罪などに問われた34歳の元看護師に対し、横浜地裁は無期懲役の判決を言い渡した。

 この判決に対して被害者遺族らは「納得ができない」とのコメントを出している。

 被害者遺族がそうした声を挙げるのは当然とは思うが、ネットなどでの意見を見ても、重大な事件に比して十分な刑罰ではないという認識が強く、納得できない人は多いようである。ということは、「無期懲役は軽い刑罰」と考えているのではないだろうか。

 確かに、無期懲役が科せられるような重大犯罪では、死刑判決が出る場合も多い。そのため、無期懲役には「死刑を免れた」といったようなイメージがあるかもしれないが、これはどのような有期刑よりも重い刑罰として存在するということをこれから示していきたい。

点滴に消毒液を混入させ3人を中毒死させた事件の裁判で、無期懲役の判決を聞く久保木愛弓被告=2021年11月9日、横浜地裁、絵と構成・小柳景義点滴に消毒液を混入させ3人を中毒死させた事件の裁判で、無期懲役の判決を聞く久保木愛弓被告=2021年11月9日、横浜地裁、絵と構成・小柳景義

 有期刑であればたとえ現在上限の30年(併合罪などで加重した場合)であったとしても、その期間を務めあげることで釈放され、一般市民として社会復帰することができる。だが、無期懲役はどれだけ期間が経っても大半は亡くなるまで受刑者のままである。

 「あれ? 無期懲役でも刑務所から出てこられるんじゃ?」と思う人がいるかも知れないが、無期懲役で服役している人が刑務所から出てくるのはあくまでも「仮釈放」である。

 仮釈放が認められ、社会で生活することになっても立場としては受刑者のままであり、定期的に保護観察官・保護司の面談を受けることが義務となる。また長期の旅行や出張などは事前に申し出て、許可を得なければならない。これらを守らなければ仮釈放は取り消され、また塀の中である。

 ところがこの仮釈放が勘違いされているせいで、世間的に無期懲役が軽く見られることが多いのである。

 「無期懲役になっても、10年ちょっとで出てこられる」という言葉を聞いたことがある人は少なくないだろう。

無期懲役は「10年ちょっと」で出られるのか

 象徴的な事件がある。2014年に千葉県柏市で発生した通り魔事件である。

 犯行当時24歳だった男は、路上で2人を死傷させた強盗殺人などの罪で起訴され、2015年に千葉地裁で無期懲役の判決が下った(判決は確定)。この判決に対して、男は法廷内で拍手をして「これでまた殺人ができる」などと発言したという。

 さらに、関西のローカル情報番組がこの一件を報じた際、出演者の芸能人が「無期懲役ということは、だいたい15年くらいで仮釈放になるわけですよね。こわいですよね」と発言。

 これに対して出演した弁護士が「刑務所で問題なく過ごせば、15年くらいで仮釈放になって、その後、問題なければそのまま社会で生活してしまう」などと、芸能人の発言を肯定したのである。

 この一連の話では、芸能人と弁護士が「15年くらいで仮釈放」と主張している。そしてこの通り魔事件の被告もまた、無期懲役を「10年ちょっとで出てこられる」と思ったからこそ「これでまた殺人ができる」などと発言したのだろう。

 だが、それは本当だろうか?

無期懲役の受刑者の受け入れを始めた横浜刑務所で、刑務作業にあたる受刑者たち=17日、横浜市港南区( 2014年無期懲役の受刑者を受け入れている横浜刑務所で、刑務作業にあたる受刑者たち=2014年(画像の一部を修整しています)

 確かに刑法28条には「無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる」と定められており、これだけを読むと「10年ちょっとで出てこられる」と認識する人がいるのもしかたない。

 しかし無期懲役は有期刑より上位の刑であり、最大で30年が宣告される有期刑との整合性を取るために、仮釈放の審査は

・・・ログインして読む
(残り:約1310文字/本文:約2798文字)