赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター
1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
元看護師の点滴連続中毒死事件判決をめぐって
2016年に横浜市の病院で、点滴に消毒液を混入させて入院患者3人を中毒死させたなどとして殺人罪などに問われた34歳の元看護師に対し、横浜地裁は無期懲役の判決を言い渡した。
この判決に対して被害者遺族らは「納得ができない」とのコメントを出している。
被害者遺族がそうした声を挙げるのは当然とは思うが、ネットなどでの意見を見ても、重大な事件に比して十分な刑罰ではないという認識が強く、納得できない人は多いようである。ということは、「無期懲役は軽い刑罰」と考えているのではないだろうか。
確かに、無期懲役が科せられるような重大犯罪では、死刑判決が出る場合も多い。そのため、無期懲役には「死刑を免れた」といったようなイメージがあるかもしれないが、これはどのような有期刑よりも重い刑罰として存在するということをこれから示していきたい。
有期刑であればたとえ現在上限の30年(併合罪などで加重した場合)であったとしても、その期間を務めあげることで釈放され、一般市民として社会復帰することができる。だが、無期懲役はどれだけ期間が経っても大半は亡くなるまで受刑者のままである。
「あれ? 無期懲役でも刑務所から出てこられるんじゃ?」と思う人がいるかも知れないが、無期懲役で服役している人が刑務所から出てくるのはあくまでも「仮釈放」である。
仮釈放が認められ、社会で生活することになっても立場としては受刑者のままであり、定期的に保護観察官・保護司の面談を受けることが義務となる。また長期の旅行や出張などは事前に申し出て、許可を得なければならない。これらを守らなければ仮釈放は取り消され、また塀の中である。
ところがこの仮釈放が勘違いされているせいで、世間的に無期懲役が軽く見られることが多いのである。
「無期懲役になっても、10年ちょっとで出てこられる」という言葉を聞いたことがある人は少なくないだろう。