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コロナ禍の刑務所で何が起きていたのか

防げなかった感染拡大、「密」な雑居房、濃厚接触者は仮釈放が取り消しに

塩田祐子 プリズンライフ・アドバイザー、監獄人権センター相談員

 コロナ禍の刑務所や拘置所で、何が起きていたのか。
 NPO法人「監獄人権センター」で、全国の受刑者から寄せられる手紙相談などに対応しているプリズンライフ・アドバイザーの塩田祐子さんにご寄稿いただきました。
 防げなかった感染拡大、「炊場」の閉鎖に伴い提供された弁当の内容、他人の寝顔が目の前にある「密」な雑居房、濃厚接触者だからと取り消されてしまった仮釈放……。寄せられた相談をもとに、実態や課題を報告しています。
 社会課題に向き合い、ともに考えるため、「ソーシャル・ジャスティス基金」(SJF)のご協力のもとで進めている連載の一環です。SJFがともに対話の場をつくってきた団体のメンバーによる寄稿を、順次ご紹介しています。

(論座編集部)

職員が感染して「濃厚接触者」に。仮釈放を取り消された受刑者

 仮釈放が決まっており、釈放前指導を受けていた所、職員の方で新型コロナ感染があり、その濃厚接触者という事で汚染病室に入れられ、仮釈放当日になって仮釈放の取消が通知されました。仕方の無い部分はあるとはいえ、私に非は無い上精神的なダメージも大きい中、具体的な説明も行われず、テレビ等で気を紛らわす事でさえ許してもらえず、PCR検査で陰性が確認された今も経過観察という名目で先の見えない闇を歩かされており、あまりにも一方的な不利益ばかりを強いられています。

 8月14日、とある受刑者から届いた手紙は驚くべき内容だった。真面目に受刑生活を送り、更生を目指していたにもかかわらず、放り込まれた「先の見えない闇」。2020年の年始から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、刑務所にも大きな被害をもたらしていた。

 日本国内の刑事施設(刑務所・拘置所)で新型コロナウイルスの感染が初めて公表されたのは2020年4月5日、大阪拘置所である。日用品の管理や受刑者の生活指導などを担当していた40代の男性刑務官が、4月2日に発熱と倦怠感を訴え医療機関を受診したところ、5日に陽性が確認された。

 このあと、大阪拘置所では4月7日、11日、15日、16日、17日に、あわせて7名の職員が次々感染した。そしてこれ以降、全国の刑務所・拘置所でも感染が相次ぎ、横浜刑務所では2020年12月14日から2021年2月7日の間に147名(職員18名、収容者129名)もの大規模感染が発生する事態となった。

全国の受刑者から、「監獄人権センター」に寄せられた手紙=筆者提供

「世間」から通勤する職員、逃げられない受刑者

 そもそも刑務所は、世間から隔離された空間に受刑者を閉じ込めているのだから、ウイルスの侵入もなく安全だろうと思われるかもしれない。だが、受刑者の処遇や生活を管理する刑務官をはじめ、刑務所で働く職員は「世間」から通勤してくるのであり、自身も気が付かないうちにウイルスを持ち込む危険は大いにある。刑務所でも時々発生するインフルエンザの集団感染も、職員の罹患が発端となっている場合がほとんどである。

 今回、日本全国の刑事施設で昨年から今年にかけて発生した新型コロナウイルスの感染状況について、監獄人権センター又は私個人が把握している事実関係等をいくつかご紹介したい。初めにお断りをしておくが、それらを挙げて、「刑務所が何も対策しなかったから感染が拡大した!!」と文句を言いたいわけではない。そもそも、「新型コロナに感染しない方法」など、医師や感染症の専門家を含めて世界中の誰も知らない。今年9月から10月にかけて、日本国内では新規の感染者数が激減したが、その原因も分かっていないというから驚きだ。

 感染は減っているとはいえ、各地の病院で職員、患者を含むクラスターが未だ発生し続けている。10月末には、沖縄県嘉手納町の病院が「入院患者10名死亡」を発表したばかりである。感染防止対策においてはプロであるはずの医療機関の職員ですら感染を止められないのだから、もともと専門知識もない刑務所の職員に「感染を出すな」と言っても無理である。

 でも、これだけは言わせて欲しい。刑務所で新型コロナの感染がひとたび発生すれば、最も重大な被害を受けるのは、その場から逃げることが絶対に許されない、受刑者達なのである。

面会・刑務作業・入浴の中止……9人に1人が感染した横浜刑務所で

 全国の刑務所、拘置所等を所管する法務省の発表によると、昨年末から今年初めにかけて、横浜刑務所(横浜拘置支所含む)では職員18名、収容者129名の計147名が新型コロナウイルスに感染した。2019年末日時点での横浜刑務所の収容者は884名、横浜拘置支所の収容者は240名なので、全収容者の約9人に1人が感染したことになる。

 感染拡大を何とか食い止めようと、刑務所側も様々な対策を行った。まずは面会の中止。法務省は今年1月12日付の文書で、「施設内における感染拡大を防止するため,当分の間,横浜刑務所での面会を原則として実施しないことが必要ですので,横浜刑務所への来訪をお控えください」と通知し、今年3月22日に再開されるまでの間、受刑者は外部の家族や友人等と面会することができなかった。収容者同士で接触する可能性がある刑務作業や入浴も中止された。

 そして、今年1月中旬には異例の「大規模移送」が行われた。横浜刑務所内の“人口密度”を下げるため、事前の検査で陰性だった受刑者約200名が、立川拘置所に突然移送されたのである。逃走事故を防ぐため、移送対象の受刑者にも事前告知は一切行わず、移送当日に初めて知らせたという。

全室「単独室」の立川へ移送……でも感染を防げなかった

 立川拘置所は、2009年にできた新しい建物で、全室が単独室(独房)である。横浜刑務所から移送した受刑者を全員単独室に収容し、他人との接触をなくせば感染も防げる……はずだったが、法務省の発表によると、立川拘置所でも今年1月25日から2月14日の間に11名の収容者が新型コロナに感染している。

 その原因は公表されていないので、原因不明であるか、または施設側は把握しているが公表していないかのどちらかである。横浜刑務所のとある受刑者は、「空調設備を伝ってウイルスが飛散したのではないか?」と疑っている。病院等の施設でも問題となっている「エアロゾル感染」の事を指すと思われるが、詳細は分からないままだ。

 横浜刑務所および立川拘置所は、この問題について調査・公表し、全国の刑務所・拘置所での感染防止対策に活かして欲しいと願うばかりだ。

三クチで食べてしまえる弁当のごはん。体重は4~5キロ減

 昨年末から今年初めに147名の大規模感染が発生した横浜刑務所では、炊場(すいじょう)と呼ばれる調理工場を閉鎖し、受刑者の食事は弁当などの代替飯(非常食)に切り替えられた。この時のことを、横浜刑務所の受刑者Aさんが手紙で送ってくれた。

 外の業者のお弁当を食べていたのですが、とにかく量が少なすぎて、その当時、皆4~5kg体重が減りました。弁当のごはんは大口で食べると三クチで食べてしまえる量で、副菜等は例えばコロッケひとつをとっても通常の半分でした。予算があるのは仕方ないですが毎日の事なので、しかもこのような所で拘禁されているので食べ物に対しては皆関心があるので、このような事が続くとゲンナリしてきます。

 その後、横浜刑務所では今年2月8日以降は当面のあいだ、職員、収容者ともに新型コロナの新規感染は発表されていなかったが、夏に入り、再びクラスターが発生。6月7日~8月15日までに12名の職員が感染した。

密な雑居房、他人の寝顔が目の前に

 同時期に収容者の感染は出なかったようだが、再びウイルスの危険にさらされた今年の夏を、彼らはどのように過ごしたのだろうか? Aさんの手紙にはこうある。

 コロナのクラスターが発生し昨年12月から今年3月9日まで工場閉鎖が続いておりましたが、対策をし直し、マスクの毎日の交換、消毒の徹底等をし、工場を再開しておりました。しかし、6月13日に告知があり職員1名に感染が確認されたとし2週間の工場閉鎖がありました。
 その後再開してホッとしていたところ7月10日にまた告知があり職員1名に感染の確認があり、また2週間の閉鎖が決まりました。今回と前回と、早めの対処でクラスターにならずに済んだと思います。思いますというのは情報が少ないため判らないためです。
 対策をしているとは言ってますが部屋(雑居)での生活は密のままです。4人くらいですと隣りの者と少しは間が取れるのでまあどうにかと思うのですが5名以上になりますと、食事をする時、矯正処遇日等でテーブルに付かなければならない時、又、布団を敷いて寝る時等すぐ横に隣りの人の顔がある状態です。
 風呂場でも一時は一席ずつ空けて座っていたのが最近になって、夏季処遇の「増入」といって週2回の風呂が
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