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【53】繰り返す千葉北部の地震、変わらぬ首都圏の弱さ

新聞報道の比較から被害の実情をみる

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

東京を襲った東日本大震災以来の「震度5強」

 2021年10月7日に起きた千葉県北西部の地震から1カ月余が経った。

 この地震の規模はM5.9、震源の深さは75キロだった。関東地方は、北アメリカプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込み、さらにその下に太平洋プレートが潜り込んでいる。この地震はフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界で起きたため、震源がやや深かった。

 最大震度は5強で、埼玉県の川口市と宮代町、東京都の足立区で観測された。東京都内で震度5強を観測したのは、2011年の東日本大震災以来である。強い揺れは、震源の千葉県北西部の西側に広がり、旧利根川沿いの軟弱地盤での揺れが目立つ。

 長周期地震動階級(※)は、千葉県浦安市日の出と東京国際空港で2が観測された。

 ※:長周期地震動階級とは、地震時に高層ビルの中にいる人の体感や室内の様子で行動の困難さの程度を4段階に区分した揺れの大きさの指標。「1」=ほとんどの人が揺れを感じ、驚く人もいる▽「2」=大きな揺れを感じ、何かにつかまらないと歩きにくいと感じる▽「3」=立っていることが困難▽「4」=立っていることができず、這わないと移動できず、揺れに翻弄される。 

 高層ビルが集中する東京の千代田区大手町や新宿区西新宿の震度は4、長周期地震動階級は1だった。一般に、やや深い位置で起きるM6クラスの地震では長周期の揺れは余り放出されないが、東京は厚い堆積層に覆われているため、長周期の揺れが増幅されやすい。

 消防庁によると、10月15日時点で分かっている被害は、重傷者6人、軽傷者41人、住家火災1件、袖ケ浦市の製油所火災、川崎市の製油所でエチレンガス漏洩、足立区の「日暮里・舎人ライナー」の車両が脱輪などだった。

脱輪して動けなくなり撤去される「日暮里・舎人ライナー」の車両=2021年10月8日夜、東京都足立区

帰宅困難、多かった水道の被害

地震で列車が止まり、JR池袋駅は運転再開を待つ人で混み合っていた=2021年10月7日午後11時46分
 コロナ禍でテレワークが広がる中、夜22時41分と夜遅くの地震だったが、鉄道運休により多くの帰宅困難者が発生した。このため、一時滞在施設が開設された。ただし、震度が5強だったこと、地震発生時間が夜遅かったことから、開設が遅れ、開設数も千葉県、東京都、神奈川県で全8施設、滞在者数は122人に留まった。

千葉県市原市では水道管が壊れ、水が噴出した=2021年10月8日午前零時過ぎ
 NHKの報道によると、首都圏で7万5千台余のエレベーターが停止し、28件の閉じ込めがあったとのことである。

 2018年大阪府北部の地震で、6万3千台余のエレベーターが停止し、346件の閉じ込めがあったことを考えると、閉じ込め件数は微少に留まった。震源が深く、P波を検知してから主要動が到達するまでに10秒以上の猶予があったことが幸いしたと考えられる。万が一、M7クラスの直下地震が地下浅部で発生すれば、東京都内にある17万台のエレベーターの多くで閉じ込めが発生すると懸念される。エレベーターの直下地震対策は喫緊の課題である。

 水道の不具合も多かった。空気弁が開いて各所で漏水が発生し、千葉県市原市では川にかかる水管橋が破損した。一方で、都市ガスの損傷は報告されていない。また、停電件数も都内で250件など一部に留まった。ライフラインの地震対策における官民の差が窺える。

繰り返す千葉県北西部の地震

 千葉県北西部の地震は、20年前後の間隔で繰り返し発生している。

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