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カバを「人間」と認める、米国判決のなぜ

人が移動させた動物たちの「その後」を考える

梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

「麻薬王」が愛した動物たち

 アメリカ、オハイオ州の地方裁判所で、「コカイン・カバ」に人に準ずる法的権利を認める判決が出たというニュースが、アメリカでは大いに話題になっている(「アメリカの裁判所が「麻薬王のカバ」を人間と認める歴史的判断」サマンサ・ベルリン ニューズウィーク日本版 2021年10月22日)。

 カバが法的には人間、というのも奇妙だが、そもそも「コカイン・カバ」という言葉自体が私たちには馴染みがない。カバがコカイン依存症になるなんていうことがあるのだろうか⁉

拡大エスコバルの死は日本でも大きく報じられた=1993年12月3日付け、朝日新聞夕刊
 実は「コカイン・カバ」という不幸な愛称は、コロンビアの麻薬組織メデジン・カルテルの大物ボス、パブロ・エスコバルに由来している。

 麻薬王エスコバルは、1993年にコロンビアの治安部隊に殺害されるまで、コロンビア政府、アメリカ政府、他のカルテルなどを敵に回しながら、コカインを世界に売りさばき、自宅に飛行場から私設の軍隊まで所有する大富豪に成り上がった。

 しかし、その史上もっとも凶悪と言われた男には意外な趣味があった。彼は、動物が大好きだったのだ。彼は世界中から、潤沢な資金を思うまま遣って、様々な動物を集め、自宅敷地内に私設動物園を作っていた。

 エスコバルが射殺されたあと、この動物園は解体されて、キリン、ゾウ、ダチョウなどのほとんどの動物はコロンビアの動物園に引き取られていった。しかし、エスコバルが特に気に入っていたアメリカの動物園から購入したという4頭のカバ(オス1頭、メス3頭)に関しては、差し押さえたコロンビア麻薬当局が、運搬が困難であることを理由に園内の池に放置した。まあ、4頭ぐらいいいか、と考えたのだろうか?

 しかし、近くを流れるマグダレナ川の自然条件が体にあったのか、天敵になるような生物がいなかったためか、ともかくカバたちは自由を謳歌して繁殖し、今では80頭から100頭ほどの個体が生息しているという。

 このカバたちが、いわゆる「コカイン・カバ」である。


筆者

梶原葉月

梶原葉月(かじわら・はづき) Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

1964年東京都生まれ。89年より小説家、ジャーナリスト。99年からペットを亡くした飼い主のための自助グループ「Pet Lovers Meeting」代表。2018年、立教大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。近著『災害とコンパニオンアニマルの社会学:批判的実在論とHuman-Animal Studiesで読み解く東日本大震災』。立教大学社会学部兼任講師、日本獣医生命科学大学非常勤講師。

梶原葉月さんの公式サイト

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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