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子どもの小さな声を大きくして届けるマイクのような活動~子どもアドボカシー(上)

設立の理由と、児童養護施設への訪問活動

NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA 奥村仁美・藤田由紀子・栄留里美

 児童養護施設や障害児施設を訪問し、子どもたちの声を聴き、願いがかなうよう支援する。
 そんな活動にとりくむNPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKAのメンバーに、ご寄稿いただきました。センターは「市民アドボケイト」を養成し、「子どもの小さい声を大きくして届けるマイクのような活動」を実践しています。その活動内容や意義、課題などを記した論考を、上下2回に分けて公開します。
 社会課題に向き合い、ともに考えるため、「ソーシャル・ジャスティス基金」(SJF)のご協力のもとで進めている連載の一環です。SJFがともに対話の場をつくってきた団体のメンバーによる寄稿を、順次ご紹介しています。

(論座編集部)

(1)私たちはなぜ、子どもアドボカシーセンターOSAKAを設立したのか

奥村仁美(おくむらひとみ)
NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA 代表理事
子どもの声を聴けるおとなになり、子どもの声が届く社会を仲間とともにつくることをめざして活動

 わたしたちは、子どもの声を大切に聴き、必要なところに届ける子どもアドボカシーの活動をしている。子どもが権利侵害を受けたとき、声を聴いてもらえないとき、子どもが相談し、アドボケイトの支援をうけることができる社会をめざし、2020年に子どもアドボカシーセンターOSAKA(以下、センター)を設立した。

子どもアドボカシーセンターOSAKA提供

「尊重されなければならない」思いや意見が届いていない

 2019年は子どもの権利条約が国連で採択されて30年にあたる記念すべき年であった。この条約の一般原則の一つは「子どもの意見の尊重」であり、子どもを権利行使の主体とする子ども観への転換も求める画期的なものとなった。

 日本では2016年にようやく児童福祉法が改正され、第2条第1項に子どもの意見が尊重されなければならないことが明記された。にもかかわらず、まだまだ子どもの思いは伝えたいところに届いていない現状がある。子どものSOSがだれにも届かないまま、命が奪われていく虐待事件も後を絶たない。児童相談所や施設・学校等において、子どもの意見や気持ちが聴かれ考慮されることがないまま、援助や教育が行われている現実もある。

 このような状況の中で、わたしたちは施設訪問を通して、子どもの声を聴き、子どもとともに権利の実現を考えてきた。そして、その時感じた子どもの力や、わたしたちもエンパワーされる感覚がこの活動の継続、発展をめざしたい気持ちにつながっていった。子どもの意見表明を支援するアドボカシーシステムを制度化するとともに、それを担うアドボカシーセンター設立とアドボケイトの養成を早急に行う必要があると考えた。

他国の事例から学び、研究プロジェクト有志が設立

 設立前は、公益社団法人子ども情報研究センター(以下、子情研)において、子どもアドボカシーの研究・実践を重ねていた。さかのぼると、1997年11月、カナダオンタリオ州子ども家庭アドボカシー事務所長のジュディ・フィンレイさんを招聘し、講演会を開催したのが学びの始まりだった。子情研では、その学びをもとに「子ども家庭相談室」を開設し、子どもの相談を受けてきた。

 2011年11月には、イギリスのアドボカシー研究者ジェーン・ダリンプルさんと実践者ヒラリー・ホーランさんを招き、講座を開催、2013年には、子情研に「子どもアドボカシー研究プロジェクト」(座長・堀正嗣)を立ち上げ、ここから施設における調査研究等が始まった。2016年には、「地域子どもアドボケイト養成講座」が実施され、ここで学んだアドボケイトが児童養護施設と障害児施設で、訪問アドボカシーの活動を始めることになった。活動の継続とさらなる発展のため、子情研研究プロジェクトメンバー有志でセンターを立ち上げ、今に至る。

市民アドボケイトが訪ね、子どもの願いがかなうよう支援する

 養成講座を受講後、市民アドボケイトとして施設訪問の活動が始まった。独立した利害関係のない第三者として、子どもの声だけに関心をよせて聴き、子どもが望めば、必要なところに伝える。施設の外の相談窓口などにアクセスできない子どもたちが待っている。

 例えば、親とスポーツしたいという希望や、視覚障害があるので小さい子どもたちが走り回っているプレールームにいることは不安だという気持ちなどを受けとめ、聴き、子どもといっしょに考えて、ときにはその声を職員に伝えたりする。子どもたちがなかなか言い出せないどんな小さなことでも受けとめ、声に耳を傾け、子どもの願いがかなうように支援するのが私たちの役割だ。

 私たちが訪問する施設には、虐待をうけて傷ついていたり、障害があって自分を表現しづらかったりする子どもがいる。どう関わればいいのか、研究者からスーパーバイズを受けながら、子どもたちと向き合ってきた。

 今回、研究者とアドボケイトがそれぞれの立場で、施設において展開してきた訪問アドボカシーの活動について掲載させていただいた。子どもの小さい声を大きくして届けるマイクのようなアドボケイトの活動を知って、課題や希望をともに感じあっていただけたら幸いである。

 会員募集中  https://childadvocacy2020.jimdofree.com/

研究者によるスーパービジョン=子どもアドボカシーセンターOSAKA提供

(2)「子どもは未完成」という思い込みが葛藤を生む~市民アドボケイトの思い

藤田由紀子(ふじたゆきこ)
NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA 市民アドボケイト
公益社団法人子ども情報研究センター 会員
施設で暮らす子どもにも“自分はたった一人の大切なかけがえのない存在”だと気づいてもらいたいと思い活動している。

 市民が子どもの立場に立ち切り、子どもの声を聴くアドボケイトに魅かれて2017年に養成講座を受講し、いまに至る。ここで取り上げるエピソードは、施設を定期的に訪問しているがゆえに遭遇できた個別アドボカシーの例であり、あくまで子ども側の話をもとに述べる。

爆発した怒り、自身が考える解決のイメージを聴く

 毎週のように訪問を重ねるようになったある日、誰かが部屋の中で怒りを爆発させている声が聞こえてきた。別室に居た私は、大きな物音に驚き、何事だろうと緊張した。この衝動の原因は、AさんとB職員との衝突だった。

 しばらくたって静かになった後、その部屋を訪ねてみた。「話を聴かせてもらってもイイ?」とAさんに許可を得て、その時何があってどのような気持ちになったのか聴かせてもらった。AさんはあることをきっかけにB職員から一方的に自室で反省するように言い渡され、その後いきなり部屋で見ていたTVを取り上げられた。そのできごとに納得のいかないAさんが、壁を蹴るなどして怒りを爆発させていたのだ。

 その話をもとにAさんの考える解決イメージを聴かせてもらうことができた。それは、Aさんが伝えたいことをC職員に聴いてもらうことだった。

何が不満なのか、一緒にまとめる

 この日C職員に伝えたことで、衝突したB職員との関係がすぐに解決したわけではなかったが、Aさんから話を聴かせてもらう中で、D職員に対しても不満に思っていることがあることも分かった。その内容については、後日訪問した日に下記の様にAさんと一緒にまとめることが出来た。


1. 私にはいつも、言い方がきついねん。「○○した?」とやさしく言ってほしい。
2. 「消すな‼」ブチっ。じゃなくて、「TV消していい?」と聴いてほしい。
3. 「これからは気を付けてね。」とやさしくいってほしい。
4. 「謝ってー!」と一方的に言われるので、「どうしたの?」とまず話を聴いてほしい。
5. その後、「謝ろか」と言ってもらえると「わかった」ってなる。
6. 声のボリュームを小さく、テンポは遅めに、優しいトーンで声を掛けてほしい。

以上

まとめた意見を、伝えたい人に伝える

 この時Aさんは、「職員からこんな風に言ってもらえると、イライラせずに生活することが出来る。」と教えてくれた。

 アドボケイトはこのように本人が伝えたいことを一緒にまとめ、伝えたい人に伝える『意見表明支援』を行う。この意見表明については、施設長などの役員と協議する検討会でアドボケイトがAさんの声として代弁することになり、その後、職員会議でも取り上げられた。後日Aさんに確認すると、職員の対応が変わりストレスが軽減されたとの報告を受けることができた。

子どもアドボカシーセンターOSAKA提供

子育てで経験した私の葛藤、原因は「子ども観」に

 人手が足りず雑務の多い職員が、小さなことにも気持ちが高ぶることは多いだろう。そのうえ、思いが強くて熱心な職員ほど子どもとの衝突も起こるだろう。集団生活ではトラブルが多発するので、自然と細かな事にも多くのルールが出来てしまう。将来苦労をさせたくないと思えば、職員の言葉もきつくなりがちだ。施設を出た後も近くで関わり続けたいと思ってもそうはいかないのだから、なおさらだろう。

 実は、これらは私自身も子育て中に経験した葛藤でもあった。当時の私は、自分の都合やルールで子どもを管理してしまっていた。しかし、その時の私の葛藤や苦しみの原因は子どもではなく、私が持つ「子ども観」の問題だった。簡単に言うと子どもは未完成な人間だというおとな側の思い込みだ。この思い込みを問い直し、子どもがおとなの決めたルールに縛られることなく安心して暮らせる社会を実現したい。

「正しさとは何か」を教えてくれるのは子ども

 私はこのアドボケイトの活動と出逢い、正しさとは何かを教えてくれるのは子どもだと確信している。困った時、子どもに聴けば歯に衣着せぬ斬新な意見を聴かせてくれるので興味深い。子どもは、信頼に値するおとなをしっかり見極めている。

 時おり遠くを見つめるその瞳の奥で、Aさんはどんな思いを秘めているのだろうか。

(3)児童養護施設を訪問する意味と課題

栄留里美(えいどめさとみ)
大分大学 福祉健康科学部 専任講師
子どもアドボケイトの研究・養成・実践に取り組んでいる。単著『社会的養護児童のアドボカシー ~意見表明権の保障を目指して』明石書店他。
【ショートver】子どもアドボケイトってなぁに?

子どもの権利保障の場で、権利は守られてきたか

 児童養護施設はそもそも子どもの権利保障の場である。虐待や貧困など親と暮らせない子どもたちにとって、衣食住を保障される場だからだ。

 ところが、子どもの最後の砦である施設で職員から虐待を受ける事案が発生し続けている。児童養護施設の場合、厚生労働省が統計を取り始めた2009年から2019年までの10年間で、虐待と認定された事案は年間27件~64件である。2019年は50件であった。認定されたのがこの数であり、虐待通告したが認定されなかったケース、虐待を受けていても通告できなかったケースもある。この数字は氷山の一角である。

 背景には施設職員の多忙化や権利擁護の研修不足等、様々な要因が重なっている。虐待を防ぐために、子どもの権利ノートの配布、第三者評価受審の義務化、第三者委員の配置など、児童養護施設は権利擁護に取り組んできた。

なぜ外部のアドボケイトが必要なのか?~第三者委員との違い

 施設には第三者委員が配置されている。だが第三者委員は利用者と施設の間を取り持ち調整することが目的だ。そのため子ども側だけに立つわけにはいかない。そして、利用者が声をあげなければ調整もできない。

 利用者はそもそも声をあげにくい。私たちは施設でくらす子どもたちから「お世話になっているからこそ言いにくい」「職員は忙しいから、言ってもいいのかなと思ってしまう」「職員に言っても、『ルールだから』って言われるからあきらめる」という声を聴いてきた。そんな子どもたちにとって利害関係がない外部のアドボケイトには意味がある。

子どもの側に立つ存在、アドボケイト

 アドボケイトというのは子ども側に立つ存在だ。深刻な虐待以外は誰にも言わない原則がある。通告する際も伝えてから外部に助けを求める。自分の味方になってくれるという安心感があるからこそ、自分の正直な気持ちを話せる。

 私も構成委員であった厚生労働省の「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム」(2021年5月)ではアドボケイトを意見表明支援員といい、今後国として制度化することになっている。

訪問型の意味、大事にしてきた「意見形成」の支援

 私たちはイギリスのアドボケイトを参考にし、訪問型が重要だと考えてきた。「電話して」と広報しても、どんな人なのかわからなければ電話をしにくい。特に施設の場合、職員に許可を得て電話をする。職員に話せないことを電話するのはハードルが高い。したがって、週1回程度訪問し、子どもに出会うことにしている。

 遊びや個室での相談を重ねることによって、話してもいいと思えること、そして自分の気持ちを整理する「意見形成」を大事にしてきた。自分の大切な人について絵を描いたり、タブレットに入力することで子どもの気持ちを整理するなどそれぞれの子どもに合った方法で子どもの声をまとめていく作業を手伝い、職員に伝えたいときにはその声を伝えてきた。

「怒らないで聴いてくれた」「秘密を守ってくれた」~子どもの反応

 本活動が2年経過したころアドボケイトを利用してどうだったかインタビュー調査を行った。調査協力者は子ども19名とアドボケイトとの関わりがあった施設職員7名である。

 子どもは「怒らないで聴いてくれた」「秘密を守ってくれた」ことに信頼感を抱いていた。課題は「時間が足りなかった」であり、もっと話したいというニーズがあった。

 意外だったのは、ある中学生から悪いことだけではなく良いことも代弁してほしいというニーズがあったことだ。「部活で、早起きとかしてお弁当とか作ってくれてたから、それが普通みたいになってたけど、早起きしてくれてありがとうっていうのを言ってもらってました。」。そして興味深いのは、「なんか言ったほうが、相手に気持ちが伝わるから、口に出して言ったほうがいいなあと思いました。」と思い、口に出すようになったという。

「子どもが話すようになった」「聴いた話を秘密にされる」~職員の声

 職員は、多忙すぎて「『横道』においてしまいがちになった子どもの思いを聴こうとするようなった」「子どもが話すようになった」「子どもが落ち着いてきた」など肯定的な評価があった。「私には言ってなかったことを、アドボケイトさんに言ってたんで、そういうふうに思ってたんだっていうのがすごい良かったです。」という語りのように、子どものニーズを知り、その後もその話題について子どもと話せたとのことである。

 課題は、最初は「お目付け役」と思ったとか、改善したいのに子どもから聴いた話を秘密にされることが述べられた。

子どもの指示に従い、子どもが参画するプロセスを重要視

 守秘の原則により、職員が守秘解除を求めても開示することはできない。本活動は改善を目的に大人だけで話すのではなく、子どもの指示に従い本人の参画を必要とするという「プロセス」を重要視するからだ。

 職員にとって課題はあったものの、子どもにとってのメリットは大きかったのではないかと考えている。

 最近は国のモデル事業の開始により、児童養護施設2か所・ファミリーホーム1か所に訪問できるようになった。全国的にも訪問アドボカシー活動が増えてきている。

 「一部施設の活動」に終わらず、子どもの声があたりまえに聴かれる社会の構築をめざして今後もアドボケイトさんたちとともに尽力していきたい。

【ロングver】子どもアドボケイトってなぁに?

 会員募集中  https://childadvocacy2020.jimdofree.com/

参考文献・資料
(1)
本:栄留 里美・鳥海 直美・堀 正嗣・吉池 毅志(2021)『アドボカシーってなに? -施設訪問アドボカシーのはじめかたー』解放出版 https://www.amazon.co.jp/dp/4759267964
NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA設立趣意書 https://childadvocacy2020.jimdofree.com/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E6%A6%82%E8%A6%81/

(3)
動画:子どもアドボケイトってなぁに?~すべての子ども~説明用1分版
栄留里美・アドボケイトひろめ隊制作
https://www.youtube.com/watch?v=GF62KE4-Oio&t=4s
動画「子どもアドボケイトってなぁに?~しせつ・さとおやかていでくらす子ども~」4分https://www.youtube.com/watch?v=1mkVUzd9k3M&t=8s