昨年消えかけた熱い空気がスタジアムに流れている
2021年11月20日
14日に水戸のホームスタジアム「Ksスタ」で行われたJ2第39節、ジュビロ磐田は引き分け以上で来季J1への昇格を決められる大一番に臨んでいたが、鈴木政一監督(66)の姿はベンチになかった。
リーグ戦の勢いそのままに、磐田は15分まで早くも水戸から2点を奪う。後半もダメを押す3点目を、J2リーグ得点ランキングトップ(22点)のエース・ルキアンが決め、3試合を残して昇格一番乗りを果たした。
J2で上位を狙うクラブは、過酷な夏場の連戦を終えると、疲労やケガ人が増えるために大事な終盤に入って足踏みをするものだ。しかし磐田は、水戸戦の勝利によって、引き分けを挟んで終盤戦16戦負けなし、直近4連勝と、足踏みどころか加速してフィニッシュする圧倒的な底力をも見せた。
昨年途中から指揮を執り、これほどの勝負強さを6位だった選手たちに植え付けた鈴木監督は、10月下旬から体調不良で検査入院し、昇格決定の前日には無事に退院はしたが異例の事態だった。
代行を務めた服部年宏HC(48)が試合後漏らした言葉に、昇格の喜びの裏に、監督のストレスや健康を害するほどの重圧といった厳しさが表れていた。選手、指導者として3度の昇格を経験して来た服部HCは、昇格の喜び以上に「とにかくホッとした」と、大きくため息を付き「(鈴木)監督を、一日でも早く楽にしてあげたかった」と、さらに安堵した表情を見せた。
鈴木監督は2000年代前半には、服部HCや名波浩(現松本監督)ら逸材を率いて、Jリーグにジュビロ時代を築く。昨年10月、J2で苦しむ名門復帰を託されてJ2の監督としては最年長の65歳で現場に(J1ではネルシーニョ監督が71歳)。服部HC、選手、スタッフ全員が「1試合でも早く昇格し、監督に安心して静養して欲しい」と、3試合を残すスピード決定の動機を口にするほど過酷なシーズンだったことが伺える。
自動昇格圏の2位につける京都も昇格に王手をかけており、2010年以来、実に12年ぶりとなるJ1復帰が目前となっている。
昇格と降格を繰り返すクラブを、行ったり、来たりを繰り返す様子から「エレベータークラブ」、或いは英語圏では「ヨーヨークラブ」と表現する。名門、古豪含めまさに「ヨーヨー大混戦」となっているのが、昇格のみならずJ1からJ2への降格、J2からJ3への降格を巡る争いだ。
昨年、スポーツ界が未知の感染症「新型コロナウイルス」の出現で試合延期、リーグ戦中断を余儀なくされるなか、Jリーグは56クラブとの協議で、感染状況によって消化する試合数や、強化の状況に不平等が起きる事態を想定。「昇格のみで降格なし」と、リーグ戦のルールを大幅に変更する柔軟性をもってこれに対応した。
J1からJ2への降格は凍結し(18チームのまま)、J2の2位までを自動昇格。J1は今季20クラブの変則数で実施された。このため来季は18クラブに戻すため、17位から20位の4クラブが一気に降格し、J2から2クラブを迎える。J2も19位から22位までの4クラブがJ3に降格する。
昨年、降格がなくなり、監督にはなかなか難しかった若手の積極的な起用が盛んに行われ、攻撃的な展開が多くなるなど副産物も生まれた。
しかし今シーズンは4クラブが一気に降格するためか、下位は例年以上に拮抗した、慎重な戦いに転じた。残り3試合の時点でも、J1から降格する可能性のある位置に、15位の湘南、16位清水(ともに勝ち点33)、17位から20位の降格圏内には、わずか勝ち点3差のなかに徳島、大分、仙台、横浜FCがひしめき合っている状態だ。
J3からJ1まで全てのカテゴリーを経験する(21年まで)という、稀な戦歴を持つ大分トリニータは、4年ぶりの降格の危機に直面する。片野坂知宏監督は「全試合がラストマッチという思いで戦うしかない」と、悲壮な覚悟を示す。
J1からの降格と同じく、J2からJ3への降格も、過去例のない熾烈さで最終節までもつれる。19位から22位まで4チームの降格にかかるのは、残り3試合の時点で、19位北九州、20位相模原、21位愛媛、最下位松本。4クラブの勝ち点差はわずかに3点しかない。数字のうえでは14位の山口まで19位以下に入る可能性を残しており、し烈を超え、壮絶なラストマッチを迎える。
最下位の松本は今季、元磐田の監督、名波浩氏を招へい。後半戦の巻き返しにかけたが勝ち点の上乗せができずに終盤に突入せざるを得なかった。
J2の降格圏内のクラブにとって、J3から昇格を果たす「顔ぶれ」が気になるところだ。
今季JFLからJ3に参入した「新人」ながら、テゲバジャーロ宮崎が首位を快走している。
しかし、J2に昇格するためのスタジアムやクラブハウスといった施設基準を定めたライセンス審査で、宮崎はまだJ1、J2ライセンスを交付されていない。もしJ3で2位の昇格圏内に入ってもJ2に参入できないルールのため、J2の降格は4ではなく3と1減になる。19位は降格を免れ、ある意味の「救済枠」となる。
今季の壮絶な昇降格の背景には、コロナ渦で打撃を受けたクラブの経営状況もある。
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