スノボとスケボーで歩む未踏の境地 わずか半年で夏冬五輪出場狙う
2021年12月10日
スノーボード男子ハーフパイプ(HP)で冬季五輪2大会連続メダリストとなった平野歩夢(ひらの・あゆむ、23=TOKIOインカラミ)が6日、遠征先の米国からオンライン取材に応じた。12月第2週のW杯から、いよいよ北京冬季オリンピック(2月4日開幕)シーズンがスタートする。
五輪選考の対象となるW杯開幕戦「コッパーマウンテン大会」を前に、「(北京は)かなり大きな、特別な五輪になっていくと思う。自分にとって、大きなチャレンジになる」と、言葉をていねいに探し、ゆっくりと、静かに答える独特の語り口で気持ちを表した。
今夏の東京五輪にスケートボードで出場(パーク14位)を叶え、日本の五輪史上に名を刻む5人目の夏冬両五輪出場を果たした。
しかし、東京の1年延期により、8月に出場した東京から北京までわずか半年で慌ただしく「衣替え」をする難題に直面。同じ「横乗り二刀流」と評されるが、足が固定されないボードでコンクリートに着地するスケボーと、足は固定された状態で雪上に着地するスノボは「全然違う競技」(平野)だ。
今年2月には先ずコロラド州で、3月には日本でスノボのトレーニングを行い、4月に全日本選手権で2位となった。冬のシーズンを終えて4月中旬からは出身地の新潟県村上市でスケートボードの練習に取り組み、5月には米アイオワ州での大会に出場して、日本人トップの成績で東京五輪出場枠を獲得。その後も米国内での遠征合宿を続けて東京での本番に臨んだ。
6日のオンライン会見でも「正直、時間と戦っている部分が大きい」と、日程の確保や準備に割く時間のバランスの難しさをあげた。どちらかの比重を大きくしてしまうと、「2兎を追うものは……」と、両競技で代表に漏れてしまいかねない重圧も感じていたはずだ。
過去、こうした困難と闘って夏冬出場を果たした日本のオリンピアン5人のうち、橋本聖子、関ナツエ、大菅小百合と女性3人はスピードスケートと自転車で二刀流を実現した。
平野がこの困難な挑戦に求めているものは何だろうか。
「違和感とか、違いを活かせれば、プラスになるんじゃないかって……」。6日のオンライン会見で、自身でこんなヒントを口にしていた。
陸上100㍍で、日本人で初めて10秒30の壁を突破する10秒28の日本記録を樹立、98年長野五輪でボブスレーに出場する二刀流をやり遂げた青戸慎司さん(54)も「違いを楽しんだ」と話す。
88年ソウルには400㍍リレーに出場、92年バルセロナでも同種目で60年ぶりの入賞(6位)をし、長野を前に公募で選手をスカウトしたボブスレー(4人乗り)で、スタート時に必要なスプリント力を買われて、男子選手として初めて夏冬出場を実現した。
「肉体、精神、技術全てでの切り替えが必要ですが、前例とか参考書があるわけではない。僕は陸上で転倒などした経験はありませんでしたが、ボブスレーでは転倒で文字通り‘痛い失敗’をして、それを修正し、未開拓の場所を毎日乗り越えて行くしかありません」
違う競技、夏冬の五輪で平野が挑む二刀流について、アスリートとして、経験者としてそう言って共感する。現在は、中京大陸上競技部の副部長を務め、スポーツ指導者として幅広く活躍している。
公募テストの前、最高速度が時速150㌔にも達するとされるボブスレーのスピードに慣れておこうと、東海地方では当時、最速とも言われたジェットコースターに乗りに行った。「ボブスレーは比較にならないほど怖かった」と、笑いながら振り返る。
ボブスレー挑戦から23年が経過した今も、忘れられない光景がある。カナダのカルガリーで、大会公式練習として割り当てられた時間は何と深夜1時。しかもマイナス25度のなか、全身タイツにスパイクを履き、ヘルメットをかぶって、大声で気合を入れている自分に、「何やってんの、オレ?」と笑いたくなったという。
それは同時に、陸上で恵まれた環境にどこかで麻痺していた自分に大切な気付きをも与えてくれた。当時は二刀流といった表現すらなく、2つの競技で最高峰を目指す挑戦にも、今のような肯定的な見方は多くはなかった。
「自分にとって、五輪という最高峰で挑んだあの二刀流が、選手としても人間としてもメンタルを本当の意味で鍛えてくれました。誰もやっていない未開拓の道を切り開くあのワクワク感を味わえて、本当に良かったと今も思っています」
青戸がそう話すように、ナンバーワンを知るトップアスリートだからこそ、登りたくなるオンリーワンの頂きがある。同じ頂上を目指すとしても、全く異なる季節、登攀ルートを開拓する喜びが、二刀流の真のだいご味なのかもしれない。
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