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五輪で“リアル二刀流”に挑む平野歩夢~ナンバーワンからオンリーワンへ

スノボとスケボーで歩む未踏の境地 わずか半年で夏冬五輪出場狙う

増島みどり スポーツライター

拡大平昌冬季五輪で2大会連続の銀メダルを獲得し、表彰式でメダルを見つめる平野歩夢=2018年2月14日、平昌オリンピックプラザ

違いを楽しむ―陸上の元日本記録保持者が成し遂げた五輪二刀流

 平野がこの困難な挑戦に求めているものは何だろうか。

 「違和感とか、違いを活かせれば、プラスになるんじゃないかって……」。6日のオンライン会見で、自身でこんなヒントを口にしていた。

 陸上100㍍で、日本人で初めて10秒30の壁を突破する10秒28の日本記録を樹立、98年長野五輪でボブスレーに出場する二刀流をやり遂げた青戸慎司さん(54)も「違いを楽しんだ」と話す。

拡大第73回日本陸上選手権の男子100メートル決勝で、青戸慎司(右端)は自らが持つ10秒28の日本タイ記録で優勝した=1989年6月18日、国立競技場

陸上とボブスレー「自分で失敗し、未開拓の場所を毎日乗り越えていく」

 88年ソウルには400㍍リレーに出場、92年バルセロナでも同種目で60年ぶりの入賞(6位)をし、長野を前に公募で選手をスカウトしたボブスレー(4人乗り)で、スタート時に必要なスプリント力を買われて、男子選手として初めて夏冬出場を実現した。

 「肉体、精神、技術全てでの切り替えが必要ですが、前例とか参考書があるわけではない。僕は陸上で転倒などした経験はありませんでしたが、ボブスレーでは転倒で文字通り‘痛い失敗’をして、それを修正し、未開拓の場所を毎日乗り越えて行くしかありません」

 違う競技、夏冬の五輪で平野が挑む二刀流について、アスリートとして、経験者としてそう言って共感する。現在は、中京大陸上競技部の副部長を務め、スポーツ指導者として幅広く活躍している。

 公募テストの前、最高速度が時速150㌔にも達するとされるボブスレーのスピードに慣れておこうと、東海地方では当時、最速とも言われたジェットコースターに乗りに行った。「ボブスレーは比較にならないほど怖かった」と、笑いながら振り返る。

拡大日本男子で初めて夏冬両五輪の出場が決まり、ボブスレーの五輪コースで初練習する青戸慎司(中央)=1997年12月23日、長野市のスパイラル

深夜1時 マイナス25度での大会公式練習

 ボブスレー挑戦から23年が経過した今も、忘れられない光景がある。カナダのカルガリーで、大会公式練習として割り当てられた時間は何と深夜1時。しかもマイナス25度のなか、全身タイツにスパイクを履き、ヘルメットをかぶって、大声で気合を入れている自分に、「何やってんの、オレ?」と笑いたくなったという。

 それは同時に、陸上で恵まれた環境にどこかで麻痺していた自分に大切な気付きをも与えてくれた。当時は二刀流といった表現すらなく、2つの競技で最高峰を目指す挑戦にも、今のような肯定的な見方は多くはなかった。

人間としても鍛えてくれた最高峰の舞台での挑戦

 「自分にとって、五輪という最高峰で挑んだあの二刀流が、選手としても人間としてもメンタルを本当の意味で鍛えてくれました。誰もやっていない未開拓の道を切り開くあのワクワク感を味わえて、本当に良かったと今も思っています」

優勝した平野歩夢のエア(空中技)=2019年5月12日拡大スケートボードに挑戦していた平野歩夢は2019年5月の日本選手権の男子パークで優勝し、東京五輪に向けた強化指定選手に選ばれた。写真はエアを決める平野=2019年5月12日
全日本選手権の予選で演技を披露する平野歩夢=2021年4月13日、札幌市拡大東京五輪出場を目指しスケートボードに専念していた平野歩夢は東京五輪イヤーの今年、北京冬季五輪を見据えスノーボードに本格復帰。4月の全日本選手権で2位に入り、4季ぶりに強化指定選手に選ばれた。写真は全日本選手権の平野の演技=2021年4月

 青戸がそう話すように、ナンバーワンを知るトップアスリートだからこそ、登りたくなるオンリーワンの頂きがある。同じ頂上を目指すとしても、全く異なる季節、登攀ルートを開拓する喜びが、二刀流の真のだいご味なのかもしれない。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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