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「生活保護を受けたくない」と言わせてしまう社会の「空気」

赤木智弘 フリーライター

 12月2日、寝たきりの姉(84)を殺害したとして殺人罪に問われた妹(82)の裁判で、東京地裁は懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡した。

 姉妹には親しい親戚や知人はおらず、1カ月10万円ほどの年金だけで暮らしていたという。ケアマネージャーが生活保護の受給や姉を施設にあずけることを勧めても、妹は「税金をもらって生きるのは他人に迷惑をかける」として断っていたということである。

 そのうち姉の体調が悪化。「これ以上介護できない。迷惑をかけないためには終わらせるしかない」と考えて殺害。警察に自首したという。

 介護問題と貧困問題が合わさった、まるで森鷗外の「高瀬舟」のような悲劇だが、やはり一番気になるのは、妹が「迷惑をかける」として福祉を拒んだ結果、殺人という最大の「迷惑」を世間にかけてしまったことだろう。

生活保護の申請を勧めても断る人は少なくない(写真は本文とは関係ありません)生活保護の申請を勧めても断る人は少なくない(写真は本文とは関係ありません)

生活保護に対する偏見と人々の自尊心

 もちろん僕の意見は「生活保護などの救済措置を受けることは、権利であって迷惑だと考える必要はない」である。

 だが、実際「生活保護など受けたくない」という人は少なくない。

 理由は概ね2つだろう。

 1つは世間の生活保護に対する偏見である。

 僕が思い出すのは、2012年に芸能人の親族の生活保護受給が報じられたことを発端にした生活保護バッシングである。

 多くの人たちが「芸能人はたくさんお金を稼いでいるのに、親族を養わず、生活保護を受けさせているのはズルい」と批判し、一部メディアなども「不正受給が蔓延」「モラルがない」といった記事で煽り立てた。

生活保護問題で次長課長・河本さん会見 201205月25P日親族の生活保護受給がバッシングされ会見を開く芸能人=2012年5月

 また、そうした批判者の中には国民の生活を守るべき立場にいるはずの政治家たちもいた。

 特に自民党の片山さつき氏は様々な場でモラルの問題や努力不足などを語り、生活保護バッシングの波に乗りたいメディアから重用された。

 自民党の世耕弘成氏は、「生活保護を受給する人はフルスペックの人権を認めてほしいのか」と発言、権利の制限を訴えた。

 また自民党の石原伸晃氏は「報道ステーション」に出演し「ナマポ」という生活保護を揶揄するネットスラングを用いて、生活保護を簡単に「ゲットできる」ことを是正したいなどと主張した。

 こうした、政治家や多くの市民による無責任な発言が、生活保護受給に対するネガティブなイメージを与えてしまい、そうした発言におびえた人たちが受給に消極的になってしまったのではないだろうか。

 そしてもう1つは

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