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保育士による幼児性犯罪の対策は、「登録」の規制にとどめてはならない

性犯罪者処遇プログラム、無犯罪証明、幼児性教育など総合的に

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 今年は、子どもに対する性犯罪をめぐり、行政・立法レベルで進展が見られた。5月に「教員による性暴力防止法」が成立し、その関心は保育施設のそれへとつながった。

 11月には、厚労省が幼児性犯罪を起こした保育士の登録取り消しの基準を強化し、また再登録禁止期間の延長を図る法改正を検討している、と報道された(朝日新聞2021年11月25日付)。

 それによれば、禁固以上の刑を受けた場合には、再登録禁止期間を現行の2年から最長10年に、罰金刑の場合は3年に延ばす方針だという。また刑罰を受けたか否かにかかわらず犯罪行為自体を「登録取り消しの理由の一つに位置づけ」、そして取り消し後に当事者が再登録を希望する場合は、「都道府県の審査会で事前にチェック」するという(同前)。

保育士による性犯罪を防止するためには総合的な対策が必要だ保育士による幼児性犯罪を防ぐには、「登録」に関わる制度だけではなく総合的な対策が必要だ

改正案への疑問

 改正案は現時点ではひとまず先進的ではある。だが総合的な対策への目配りが欠けていないか。

 それは、登録を取り消された保育士に再登録を認める立場をとる。だが幼児性犯罪の累犯性(斉藤章佳『「小児性愛」という病──それは愛ではない』ブックマン社、no.1905-24(*))を考慮すれば、再登録はとうてい認めがたい。前記法律にも見るように、それ自体は刑法との関係上やむをえないとはいえ(刑の効力は執行後10年で消滅するとされている)、やはり納得できない。
(*)本書は電子書籍のため一定字数ごとに付された「no.」を記す。以下同じ。

 また同改正案の趣旨からすれば、再登録時に行われる事前チェックの際、服役・出所の事実は更生した証と見なされて、再犯の可能性はひとまず減少したと期待されるのかもしれない。だが、仮にそうだったとしても、その事実が──ましてや懲戒処分を受けた程の事実が──その後の性犯罪に対する抑止力になるとは限らない。

 とすれば単にチェック体制の整備ではなく、再発防止のための、「認知行動療法」にもとづく「性犯罪者処遇プログラム」の整備・受講義務づけ等が、同時に追求されるべきである。

性犯罪者処遇プログラム

 同プログラムは現在、刑務所等の刑事施設や保護観察所で行われている。

 刑事施設でのそれは、一部の施設で、しかも必要と認められる受刑者に対して行われるにすぎない。加えて実施時間は週1回4カ月(低密度)~週2回9カ月(高密度)にすぎない(杉田編『逃げられない性犯罪被害者──無謀な最高裁判決』青弓社、199-200頁、桐生正幸氏執筆;Wikipedia「性犯罪者処遇プログラム」)。受刑者の刑期は数年から時に10年以上に及ぶというのに、受講時間が短すぎる。

 保護観察所のそれは仮釈放中と保護観察付き執行猶予中の全性犯罪者に対して実施され、保護司による支援や「家族プログラム」等の独自な方式をもつが、やはり課せられる受講時間が短すぎる点は変わらない(杉田編200頁、斉藤no.2099-104)。

 これが現状である。だが「性犯罪者処遇プログラム」は再発防止のために不可欠である。本稿の後半で犯罪「機会」を減らす必要を論ずるが、同プログラムによって犯罪「動機」を減らす努力を同時に追求して初めて、対策は十全なものとなりうる。対象者・受講時間について改善を図りつつ(受刑者のうちから対象者を選別せず、また懲戒処分ですまされた人も対象者に含める必要がある)、今後もこの制度を拡充すべきである。

無犯罪証明

 そもそも保育現場での犯行を未然に防ぐための方策も求められる。

 まず、保育士になろうとする人に対し、登録時に「無犯罪証明」を求めるという、少なくない国で実施されている制度(DBS)を、日本でも採用すべきであろう。履歴書には一般に「賞罰」欄がある。「罰」については

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