メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

中絶薬の導入で日本女性にも中絶の権利を

搔爬を前提とした法律と医療を、全面的に見直すべき時だ

塚原 久美 金沢大学非常勤講師、RHRリテラシー研代表、中絶ケアカウンセラー

なぜ搔爬なのか

 ⽇本は中絶についても医療保険がきかない⾃由診療で、料⾦は医師の⾔い値である。幅広い理由で中絶が受けられる世界80カ国について保険の適⽤状況を調べた2018年のグロスマンらの研究によると、34カ国が全額保険適⽤、25カ国が⼀部保険適⽤であり、合わせて74%を占めていた。中絶薬の世界の平均原価は円換算で700円台と⽐較的廉価であることも、保険適⽤国が増えた理由の⼀つかもしれない。アメリカなどの10カ国は例外的なケースに保険が適⽤され、⽇本は基本的に保険がきかない11カ国に分類されていた。表2にG7各国と、⽇本同様に健康保険のきかないもう⼀つのOECD加盟国であるオーストリアの中絶費⽤をまとめた。G7各国では中絶にも保険がきく国が多い。⽇本同様に⾃⼰負担であるオーストリアの中絶料⾦は3万9000円から⾼くても10万8000円程度で、⽇本よりはるかに安い。明らかに⽇本の中絶料⾦はずば抜けて⾼額である。しかも、⽇本では今も掻爬が多⽤されている。

表2拡大 *科学研究費補助金・挑戦的萌芽(ほうが)研究2010~2011「我が国における中絶医療実態の調査研究」(研究代表者、金沢大付属病院講師・打出喜義)。日本で中絶料金に関する全国調査は、私の知る限り2010年に金沢大の医師や助産師と共に行ったこの調査のみである。  **備考の週数(w)は中絶期限。料金は2021年12月20日の換算レートによる。全額保険適用国は保険適用されない場合の料金。
(料金比較資料)筆者のはてなブログ「リプロな日記」2021年12月20日のエントリー

 では、どうして⽇本の指定医師たちは今も掻爬を使いつづけているのか。

・・・ログインして読む
(残り:約2934文字/本文:約8257文字)


筆者

塚原 久美

塚原 久美(つかはら・くみ) 金沢大学非常勤講師、RHRリテラシー研代表、中絶ケアカウンセラー

日本の中絶問題をフェミニズムの視点で研究。訳書『中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション』(共訳 青木書店 2008年)、『水子供養商品としての儀式:近代日本のジェンダー/セクシュアリティと宗教』(監訳 明石書店 2017年)など。主著『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ:フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房 2014年)は山川菊栄賞、ジェンダー法学会西尾賞を受賞。 SNS:ツイッター @kumi_tsukahara / facebook https://www.facebook.com/kumi.tsukahara

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです