メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

賠償金を払いすぎているという東電のトンデモ主張【上】被害者を被害者と思わぬ非道に拍車

原賠審の議論や高裁判決を無視する東電――被害を無いと嘯き、声を抑え込む姿勢を問う

馬奈木厳太郎 弁護士

拡大原発事故から10年の今年3月、テレビ会議などを通じて、福島第一原発にいる社員らに訓示する東京電力の小早川智明社長。「福島の復興、福島の未来のため全力を尽くしてほしい。10年を区切りとせず福島への責任をまっとうしよう」と述べた=2021年3月11日

東電は原発事故後の誓いからかけ離れ、悪質さを増している

 2011年の福島第一原発事故を受けて、東京電力(東電)は、3つの誓い(①最後の一人まで賠償貫徹、②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、③和解仲介案の尊重)を公表しています。現在も、この3つの誓いを遵守するというのが東電の公式見解です。

 しかし、実際の東電の姿勢が、3つの誓いの精神からはおよそかけ離れたものだったというのは、たとえば、原発ADR(裁判外紛争解決手続)において和解案の受諾を拒否し続けたように、被害救済に携わった実務法曹家の間では共通認識となっています。

 そして、近時の東電の主張は、これまでにも増してより悪質なものになっています。

 そこで、本稿では、東電の主張と狙いを紹介し、何が問題なのか、どう悪質なのかを2回に分けて明らかにしたいと思います。今号【上】では、賠償支払いの枠組みや、東電の主張内容を紹介します。次号【下】では、今号をふまえて、東電の主張の狙いや、これがどう批判されるべきかについて述べたいと思います。

拡大「福島を切り捨てるな」と示す生業訴訟原告団=2017年10月、福島市

原発訴訟の枠を超え、被害者救済の在り方に広くかかわる問題

 訴訟の一方当事者である東電が、原告の主張に対して反論すること自体は、訴訟行為として当然のことではありますが、近時の東電の主張は、訴訟のなかのものとしても目に余るものであり、また原告を超えた被害者一般にかかわり、広く救済のありかたにかかわる内容でもあることから、本稿で取り上げる次第です。

 原発事故以来、私は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)をはじめ、原発ADRや直接請求など、様々な形で被害救済に携わってきましたが、被害者の蒙った被害に対して、その救済は充分とはいえません。だからこそ、被害者は声をあげていますが、そうした声に真摯に向き合うのではなく、被害は無いと嘯き、声を押しつぶそうとしているのが、東電です。以下、詳しく述べます。

拡大法廷に先立つ集会で原告団に呼びかける筆者=2015年5月、福島市

現在の賠償支払いの中核は原賠法。指針を原賠審が定める

 東電の主張を紹介する前に、まずは原発事故の賠償支払いについて、現行の枠組みを確認しておきたいと思います。

 現行の枠組みは、原子力損害賠償法(原賠法)や原子力損害賠償・廃炉等支援機構法といった法律によって建てつけられています。

 原賠法は、原子力事業者の賠償責任を明記したもので、第1条では、「被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」と謳われています。教科書的には、被害者保護と原子力事業の健全な発達という2つの目的を有している法律だと説明されるはずですが、私見では、「金は払うから原発やらせろ」という、被害を金で抑え込んでも原発を進めることを目的とした原発推進法だととらえています。

拡大「原子力明るい未来のエネルギー」の立て看板=2014年10月、双葉町

原賠法の賠償主体は東電。国の資金援助は10兆円超

 いずれにしても、国の責任は明記されず、メーカーの責任は免除し、原子力事業者のみが賠償責任を負うという原賠法が、現在の賠償支払いの中核を担っています。

 また、この法律では、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)という機関が設置されることになっていて、原賠審が賠償の指針を定めることになっています。

 実際、今回の原発事故後には、原賠審は、中間指針と題する指針をはじめ、複数回にわたって指針を策定しています。東電は、この指針をベースに、賠償支払いをこれまで行ってきました。

 なお、賠償の主体は東電ですが、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東電が被害者に賠償する資金を、政府が肩代わりするという仕組みになっています。これまで、東電に対する資金援助は、10兆円を超える規模になっています。

拡大地震と津波により、チェルノブイリ原発事故以来、世界で最も深刻な原子力事故を起こし、甚大な被害を出し続けている東京電力福島第一原発=2011年3月20日、福島県大熊町、エア・フォート・サービス提供

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

馬奈木厳太郎

馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう) 弁護士

1975年生まれ。大学専任講師(憲法学)を経て現職。 福島原発事故の被害救済訴訟に携わるほか、福島県双葉郡広野町の高野病院、岩手県大槌町の旧役場庁舎解体差止訴訟、N国党市議によるスラップ訴訟などの代理人を務める。演劇界や映画界の#Me Tooやパワハラ問題も取り組んでいる。 ドキュメンタリー映画では、『大地を受け継ぐ』(井上淳一監督、2015年)企画、『誰がために憲法はある』(井上淳一監督、2019年)製作、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(平良いずみ監督、2020年)製作協力、『わたしは分断を許さない』(堀潤監督、2020年)プロデューサーを務めた。演劇では、燐光群『憲法くん』(台本・演出 坂手洋二)の監修を務めた。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

馬奈木厳太郎の記事

もっと見る