障害児施設への訪問活動にとりくんで
2022年01月02日
子どもの小さな声を大きくして届けるマイクのような活動~子どもアドボカシー(上)
内山洋子(うちやまようこ)
NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA 事務局長
公益社団法人子ども情報研究センター会員
子どもや、おとなの声を「聴く」ことをライフワークにしている。
数年前から、アドボケイトとして障害児施設に訪問している。
初めて行った時のこと。安全を優先しているのか、何もないプレイルームに、20人ぐらいの子どもたちが居た。ぬいぐるみがいくつかあるだけで、部屋の内側から鍵がかけられ、扉の開閉を職員が管理していた。入所したばかりの子が、「牢屋みたいや」と言ったことが忘れられない。
今、子どもへの対応に問題があると言われている児童相談所に付設された一時保護所だが、施設の子どもの何人かも「いちほって(一時保護所のこと)怖いとこやで」と話してくれた。子どもたちの背景は分からないが、かなりしんどい状況で保護されて、そして「怖いとこ」を経験して、その気持ちを抱えて、誰も知り合いがいない施設に入って来たのか……。どんなに力を奪われたのだろうかと胸が痛くなった。
施設訪問は子どもの話を聴くことを目的として、個別に外出することを取り入れている。
子どもと外出していると、同級生の子と出会うのを嫌がる子が多く、地域の子どもたちが遊びにくるのを見たことがない。地域と交流がほとんどない中で登校している。障害児施設は、子どもが当たり前に暮らす環境にはないと訪問するたびに感じる。
入所年数が長ければ長いほど、普通に暮らすことから遠ざけられているように思う。そのせいなのか、「~~しなさい」ということばには、返事をするが、例えば「何色が好き?」という自分のことを問いかけられる質問には、スルーしたり「ん-」と返事に困る子が何名かいた。
幼児の時から入所している16歳のAに、何度か話を聴いた。感情がコントロールできない自分を認めることができなくて、自分を否定して、職員に迷惑をかけている存在と思っている。
そんなAと外出した時のこと。計算ができるのに、財布を当たり前のように私に渡したり、お菓子の食べ残したゴミを当たり前のように「はい!」と言って渡してくれた。一人で出かけたことがないのか、知人と出かける経験があまりないからなのかな?とその時思った。
退所後のことを質問したら、身内のいるグループホームに行くと即答した。よくきいてみると、見たこともないグループホームに自分も行くものだと思っているようだ。「一人暮らしはどう思う?」と聞いても「怖い」と言うだけで、話はひろがらない。一人暮らしするイメージがないのかな?と思った。退所しても一人暮らしできる力を充分に持っていると私は思うのだが、グループホームでしか選択肢は無いと思っているようだ。
退所に向けた個別支援計画にAの声を反映させるには、「一人暮らし」「グループホーム」どちらも選べるのだと理解して、さまざまな気持ちを整理したり、自分の権利を学んだりしないと、Aの願いを個別支援計画に載せるのはとても難しい。
そのため訪問の回数や人手を増やすことが、早急の課題だ。コロナ下で訪問頻度が制限されていることから、なかなかAと出会えず、気持ちは焦るばかり。Aはあと1年3カ月で退所になる。
子どもの力を閉じ込めてしまう今の社会的養護のあり方に、なんとも言えない気持ちになる。退所に向けてサポートする制度が私の知る限り、障害児施設にはないようだ。慢性的な人手不足の施設の職員たちも、ジレンマを抱えているように見受けられる。
A以外の子どもたちも、今までの納得できない怒りが溜まり、爆発して声を荒げているのかな?と思う場面があった。でも、その表現は障害のせいにされたり、個人のせいにされたりしているようだ。
Aと外出したとき「人と話すのが苦手、何話したらいいかわかれへん」と話してくれた。聴いているうちに、漫画の好きなAは会話で使う言葉を漫画から学んでいると教えてくれた。話すことに苦手意識を持ち、それを克服しようとしているんだと、二人で確認しあった。豊かな時間と感じた瞬間だった。
私たちが訪問してから、いつの間にか鍵もかけられなくなり、子どもたちは、鍵がかけられないことに慣れてきているようだ。また、職員が遊びに参加したり、気持ちを受け止めている場面を見かけるようになった。私たち第三者が入ることで変化したのかもしれない。
会員募集中 https://childadvocacy2020.jimdofree.com/
鳥海直美(とりうみなおみ)
四天王寺大学 人文社会学部 教授
ソーシャルワーカーの養成教育に従事。障害児者のアドボカシー、障害者と共に生きる地域社会のあり方について実践・研究に取り組む。
国連子どもの権利委員会は障害児施設について、最後の手段として利用するものとし、脱施設化プログラムの確立に加えて、里親のもとでの養育への措置変更を促進しなければならないという意見を提示している。日本では、家庭で養育を受けられず、里親養育の機会からも疎外された6,944人の障害児が福祉型障害児入所施設で暮らしている(2019年3月時点)。
しかし、障害児施設における施設内虐待は、平成30年度に17件、令和元年度に14件が報告されている。施設で暮らす障害児が苦情を訴える外部機関として児童福祉審議会が位置づけられているが、平成28年度に児童福祉審議会が障害児から直接に相談を受け付けたのは僅か1件であった。
障害児からの相談が極めて少ない背景には、言語表現や移動に制約の大きい障害児にとって、相談窓口に電話をかける行為や、相談機関宛てのはがきに文字を書いて投函する行為に他者の支援を必要とすることがある。また、多くの社会的障壁に囲まれ続けてきた障害児の場合には、自分が何に対して不便や不満を感じているのかを理解することが難しいこともある。
このように施設で暮らす障害児の苦情や要望がより積極的に聴かれるためには、相談を待つのではなく、積極的に働きかけていくアウトリーチ型の権利擁護が求められる。その要請に応えるのが施設訪問アドボカシーである。
4年間にわたる活動の成果としては、第一に、施設訪問アドボカシーが施設の子どもや職員に浸透し、コロナ禍による中断期間を挟みつつ、現在も訪問活動が継続していることが挙げられる。その要因として、子どもとの信頼関係づくりに重きを置いたアドボケイトの存在が子どもに肯定的に受け入れられ、その結果として、施設職員から信頼が得られたことがある。
訪問当初は「困っていることは?」というアドボケイトによる質問に対して、「何もない」という子どもの反応がみられたが、訪問を重ねるにつれ「アドボケイトは子どもが困っていることや話を聴いてくれる」という認識へ変容するに至った。
一方、職員からは「現場の風通しがよくなる」「外部の目に触れる機会」「いい意味で緊張感を持っている」という評価が得られた。施設の密室化を防ぎ、不適切な支援や施設内虐待を抑止するという役割への期待が職員から寄せられている。
個別支援計画の見直しの時期に併せて子どもの意見を個別に聴き取り、それを職員に伝え、それをふまえて職員が支援内容を検討することになった。とくに、退所を控えた高校生にアドボケイトが重点的にかかわり、「どこで誰とどのように暮らしたいか」という意見形成を支援した。また、子どもと施設長との面談の場に、子どもの求めに応じてアドボケイトが同席し、退所後の暮らしに関する要望について意見表明を支援した。
計画の作成過程や会議に子ども本人の参加を促進する役割の一翼を、アドボケイトが担うことが示された。
第三の成果として、子どもとアドボケイトがともに外出する活動形態を取り入れたことが挙げられる。障害児施設において単独で外出可能な子どもは限られ、ほとんどの子どもが職員の同行による支援を要するために外出の機会が大きく制限されている。面談室の確保が難しいという施設の構造上の理由もあったが、「外出したい」という子どもの思いに導かれて、施設近郊を子どもと歩きながら話を聴いた。
外出によって萎縮した心が解きほぐされ、多くの情報を入手しながら自身の関心や選好を自由に表現することは、意見形成の機会としても有効であった。また、障害児が地域を自由に歩くことは、施設で暮らす障害児が共に生きる地域社会の一員であることを、その存在をもって地域住民に知らしめる機会でもあった。
子どもの意見を起点にして支援内容や施設環境の改善を図る取り組みは、施設職員の自助努力に委ねることになるが、施設職員の人員が極めて少ない中ではそれは容易ではない。
施設訪問アドボカシーが実効的に機能するためには、それが制度に位置づけられ、アドボケイトの人員を確保しながら、子どもの権利という観点から施設に対して一定の拘束力をもつことが必要である。併せて、障害児施設の人員基準を高めるための財源確保や、グループホームなどへの小規模化を図ることも課題である。
会員募集中 https://childadvocacy2020.jimdofree.com/
参考資料
(5)
・子ども情報研究センター(2018)「都道府県児童福祉審議会を活用した権利擁護の仕組み 調査研究報告書」厚生労働省調査研究事業平成29年度子ども・子育て支援推進調査.
・厚生労働省(2020)「障害児入所施設の機能強化をめざして:障害児入所施設の在り方に関する検討会報告書」障害児入所施設の在り方に関する検討会,2020年2月20日.
・堀正嗣・栄留里美・鳥海直美・吉池毅志(2020)「児童養護施設・障害児施設・障害者施設におけるアクションリサーチ報告書」
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