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子どもの小さな声を大きくして届けるマイクのような活動~子どもアドボカシー(下)

障害児施設への訪問活動にとりくんで

NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA 内山洋子・鳥海直美

(5)「最後の手段」とされた障害児施設で、子どもの権利を守る訪問アドボカシー

鳥海直美(とりうみなおみ)
四天王寺大学 人文社会学部 教授
ソーシャルワーカーの養成教育に従事。障害児者のアドボカシー、障害者と共に生きる地域社会のあり方について実践・研究に取り組む。

虐待があっても、届かない障害児からの相談

 国連子どもの権利委員会は障害児施設について、最後の手段として利用するものとし、脱施設化プログラムの確立に加えて、里親のもとでの養育への措置変更を促進しなければならないという意見を提示している。日本では、家庭で養育を受けられず、里親養育の機会からも疎外された6,944人の障害児が福祉型障害児入所施設で暮らしている(2019年3月時点)。

 しかし、障害児施設における施設内虐待は、平成30年度に17件、令和元年度に14件が報告されている。施設で暮らす障害児が苦情を訴える外部機関として児童福祉審議会が位置づけられているが、平成28年度に児童福祉審議会が障害児から直接に相談を受け付けたのは僅か1件であった。

届かない苦情や要望を「アウトリーチ型」で聴く

 障害児からの相談が極めて少ない背景には、言語表現や移動に制約の大きい障害児にとって、相談窓口に電話をかける行為や、相談機関宛てのはがきに文字を書いて投函する行為に他者の支援を必要とすることがある。また、多くの社会的障壁に囲まれ続けてきた障害児の場合には、自分が何に対して不便や不満を感じているのかを理解することが難しいこともある。

 このように施設で暮らす障害児の苦情や要望がより積極的に聴かれるためには、相談を待つのではなく、積極的に働きかけていくアウトリーチ型の権利擁護が求められる。その要請に応えるのが施設訪問アドボカシーである。

「聴いてくれる」「風通しがよくなる」 寄せられる信頼、期待

 4年間にわたる活動の成果としては、第一に、施設訪問アドボカシーが施設の子どもや職員に浸透し、コロナ禍による中断期間を挟みつつ、現在も訪問活動が継続していることが挙げられる。その要因として、子どもとの信頼関係づくりに重きを置いたアドボケイトの存在が子どもに肯定的に受け入れられ、その結果として、施設職員から信頼が得られたことがある。

 訪問当初は「困っていることは?」というアドボケイトによる質問に対して、「何もない」という子どもの反応がみられたが、訪問を重ねるにつれ「アドボケイトは子どもが困っていることや話を聴いてくれる」という認識へ変容するに至った。

 一方、職員からは「現場の風通しがよくなる」「外部の目に触れる機会」「いい意味で緊張感を持っている」という評価が得られた。施設の密室化を防ぎ、不適切な支援や施設内虐待を抑止するという役割への期待が職員から寄せられている。

退所後にどう暮らしたいか? 聴き取った意見を支援計画に反映

拡大子どもアドボカシーセンターOSAKA提供
 第二の成果として、アドボケイトが聴き取った子どもの意見を個別支援計画に反映する取り組みや、会議にアドボケイトが同席して子どもの意見表明を支援する取り組みへとつながったことである。

 個別支援計画の見直しの時期に併せて子どもの意見を個別に聴き取り、それを職員に伝え、それをふまえて職員が支援内容を検討することになった。とくに、退所を控えた高校生にアドボケイトが重点的にかかわり、「どこで誰とどのように暮らしたいか」という意見形成を支援した。また、子どもと施設長との面談の場に、子どもの求めに応じてアドボケイトが同席し、退所後の暮らしに関する要望について意見表明を支援した。

 計画の作成過程や会議に子ども本人の参加を促進する役割の一翼を、アドボケイトが担うことが示された。

心を解きほぐす、「地域社会の一員」と知らせる~外出の効果

 第三の成果として、子どもとアドボケイトがともに外出する活動形態を取り入れたことが挙げられる。障害児施設において単独で外出可能な子どもは限られ、ほとんどの子どもが職員の同行による支援を要するために外出の機会が大きく制限されている。面談室の確保が難しいという施設の構造上の理由もあったが、「外出したい」という子どもの思いに導かれて、施設近郊を子どもと歩きながら話を聴いた。

 外出によって萎縮した心が解きほぐされ、多くの情報を入手しながら自身の関心や選好を自由に表現することは、意見形成の機会としても有効であった。また、障害児が地域を自由に歩くことは、施設で暮らす障害児が共に生きる地域社会の一員であることを、その存在をもって地域住民に知らしめる機会でもあった。

施設訪問アドボカシーの制度化に向けて

 子どもの意見を起点にして支援内容や施設環境の改善を図る取り組みは、施設職員の自助努力に委ねることになるが、施設職員の人員が極めて少ない中ではそれは容易ではない。

 施設訪問アドボカシーが実効的に機能するためには、それが制度に位置づけられ、アドボケイトの人員を確保しながら、子どもの権利という観点から施設に対して一定の拘束力をもつことが必要である。併せて、障害児施設の人員基準を高めるための財源確保や、グループホームなどへの小規模化を図ることも課題である。

 会員募集中  https://childadvocacy2020.jimdofree.com/

参考資料
(5)
・子ども情報研究センター(2018)「都道府県児童福祉審議会を活用した権利擁護の仕組み   調査研究報告書」厚生労働省調査研究事業平成29年度子ども・子育て支援推進調査.
・厚生労働省(2020)「障害児入所施設の機能強化をめざして:障害児入所施設の在り方に関する検討会報告書」障害児入所施設の在り方に関する検討会,2020年2月20日.
・堀正嗣・栄留里美・鳥海直美・吉池毅志(2020)「児童養護施設・障害児施設・障害者施設におけるアクションリサーチ報告書」

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