体操にエキシビション文化を~新たな魅力発信へ、フィギュア手本にプロジェクト始動
アテネ金の水鳥氏主宰、トップ選手・OB出演―スポーツの新たな価値を創造
増島みどり スポーツライター

10月に北九州で開かれた世界体操・世界新体操の会場では、試合前に体操エンタメ化プロジェクトのメンバーがエキシビジョンを披露し、盛り上げた=「スポーツの価値具現化プロジェクト」のクラウドファンディングHPから
選手のキャリア支援や、新たな強化策にも活かせる可能性

体操世界選手権の種目別決勝、平均台で金メダルを獲得した芦川うららの演技=2021年10月24日、北九州市
初イベントには、ロンドン、リオデジャネイロ両五輪代表で現役の寺本明日香(ミキハウス)や、今年10月の世界選手権(北九州)平均台で金メダルを獲得したばかりの芦川うらら(静岡新聞SBS)、男子のリオ五輪団体総合金メダリストの白井健三さん、新体操「フェアリージャパン」の前主将、杉本早裕吏(すぎもと・さゆり)、24年のパリ五輪で新種目に採用されたブレイキン(ブレイクダンス)の選手たちが参加する。また、トランポリンやアクロ体操の出演者も今後加わる予定だ。
寺本明日香「演技機会が増えるのは現役にもとてもいいこと」

体操発スポーツエンターテインメント~CRISTALLO~」の開催を記者会見で発表した水鳥寿思氏、寺本明日香さん、田中理恵さん=2021年12月13日、体操エンタメ化プロジェクトの公式ツイッター画面から
会見に出席した寺本はアイスショーの大ファンと告白し、「どんなに練習を積み重ねても、試合でミスし、代表になれなければそれを披露する場がなかった。床の演技時間は1分半しかない。これじゃぁ(自分を表現するのに)全然足りない!っていつも思っていました」と、エキシビを通して体操への思いをもっと深く、広く表現したいと声を弾ませた。
現役との両立についても、「練習か競技会か、だけではなく、お客さんの前で演技する機会が増えるのは現役にもとてもいいことだと思う」と前向きに捉える。
アイスショーが日本で定着した背景には、観客の表情も見えるほど近い距離で、世界的なトップ選手たちがさらに表現力を磨き、技術力を高め、それが競技会に直結した実績があるからだろう。
ショーにとどまらぬ意義、選手のキャリアを社会貢献につなげる

水鳥寿思氏が発起人となり、2021年8月に発足したスポーツ推進団体「Sports Performance Laboratory」は、スポーツが社会に貢献できる価値を5分野に分類した。エンタメ化プロジェクトやアスリート支援プラットフォーム運営などを位置づけている。
加えて水鳥氏は「現状では、五輪や世界選手権、トップレベルで活躍した選手たちの貴重なスキルが、引退と同時に活かせなくなる。せっかく築き上げたキャリアをさらに活かし、地域や社会貢献につなげる持続性が大切」と、ショーの運営だけに終わらない意義を強調する。
実際に、浅田さんのショーも、スケート業界全体の裾野や産業の拡大にも好影響をもたらしている。「サンクスツアー」を終えた今夏、今後もショーでの挑戦を表明。ショーに出演するスケーターのオーディションを告知し、それが多くのスケーターたちの励みや目標にもなっている。
24歳と体操界でも早く引退した白井は「体操の凄さを、もっと分かりやすく、シンプルに伝えてみたいという気持ちは一層強くなった」と話している。
体操でもリオ五輪の競技日程終了後に「GALA」(ガラ)と称した、大体的なエキシビが行われた例はあるが、日本選手は参加していない。

【左】白井健三さんの代名詞といえる「後方伸身宙返り4回ひねり」の連続写真。2013年10月の世界選手権の種目別ゆかで成功させ優勝。「シライ」と命名された(合成写真)=アントワープ【中】プロ野球・日本シリーズの巨人―楽天戦の始球式に登場した白井選手は宙返りで場内を沸かせた=2013年10月29日、東京ドーム【右】リオデジャネイロ五輪の種目別跳馬で白井選手が世界で初めて成功させた「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」の連続写真(24枚を合成)。「シライ2」と名付けられた=2016年8月15日