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大阪の放火事件で考える──心療内科に対する偏見とガソリン規制

赤木智弘 フリーライター

 2021年12月17日。大阪市北区の雑居ビルに入っていた心療内科で、放火事件が発生した。

 これを書いている現在では25名がお亡くなりになっている。ご冥福をお祈りする。

 僕が気になるのは、容疑者がこの心療内科の患者だったため、地域のクリニックや患者に対する偏見が助長されないかという点だ。同じように雑居ビルに入っている精神科や心療内科が不当な非難を受けないかが心配である。

 心療内科は精神が不安定な人が集まる場所である。だから「ここの患者は犯罪を起こしやすいのではないか」「逮捕されても心神喪失と診断され『責任能力無し』として無罪になることも少なくない。彼らはそれを知っているから簡単に犯罪を起こすのではないか」などと考える人がいる。

 精神疾患により、責任能力が無いと判断されて無罪になることは、決して彼らの特権ではない。しかし患者に対する偏見を強める根拠になってしまっている。僕は、そうした人たちは法の裁きをしっかりと受けながら同時に治療を受けていくべきだと考えているのだが、ここではそうした私見は置いておこう。

大阪市北区のクリニック放火事件の現場で=2021年12月23日大阪市北区のクリニック放火事件の現場で=2021年12月23日

 しかしながら心療内科に通っているからといってその人たちが今回のような事件を起こすわけではなく、当然、患者のごくごく一部に過ぎない。それは健常者と変わることはない。

 心療内科に通う人が“犯罪予備軍”だというなら、まったく通院していない人が犯罪を起こした時は、通院していないほかの人も“犯罪予備軍”となるのだろうか。そんな馬鹿な話はないだろう。

 その容疑者の属性で他の人もひと括りにして疑ってかかるのは差別的な視座でしかないのである。

ガソリン携行缶の販売規制の実情

 さて、今回の事件は容疑者がガソリンを撒いたことで被害が大きくなった。

 男はクリニックに入った直後に、暖房器具の近くで持参した紙袋を蹴り倒したところが目撃されている。

 ここ最近のガソリンを使った事件では、2019年、京都アニメーションへの放火事件が有名である。また、同年、あいちトリエンナーレで行われた企画展「表現の不自由展・その後」に対する脅迫事件でも「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」という文面としてガソリンが利用された。

 特に京都アニメーションの事件はインパクトが強かったことから、消防法が改正され、2020年2月1日から携行缶でのガソリン購入に際しては、本人確認と使用目的の確認、販売記録の作成が求められることになった。

 身分証明書の提示や使用目的をハッキリさせることが抑止力になるということらしいが、実際には購入時に申し出た目的通りに使っているかを確認する術はなく、それっぽい用途さえ言っておけば、購入できるというのが実情である。

携行缶へガソリンを販売する際、使用目的などを確認するよう指導する消防署員ら=2020年7月17日、京都市下京区、携行缶へガソリンを販売する際、使用目的などを確認するよう指導する消防署員=2020年7月、京都市下京区

 多くの人にとってガソリンは「車やバイクを動かすための燃料」であり、携行缶で買うこと自体が疑わしいと考えて、中には「携行缶での販売を禁止すればいい」などと言い出す人がいるかもしれない。

 しかしガソリンは、パワーが必要な農耕機械や草刈り機、チェーンソーなどにも使われ、携行缶でのガソリン販売は決して珍しいものではない。

 こうした農機具類にはガソリンとエンジンオイルを混ぜた「混合ガソリン」が使われることが多く、これは使う機具に合わせて適した比率で混ぜる必要があることから携行缶で買って作業場などで混ぜる必要がある。

凶悪事件を防ぐための基本に立ち返る

携行缶へガソリンを販売する際、作成が義務づけられている書面の一例=2020年7月11日、京都市伏見区携行缶へガソリンを販売する際、店側に作成が義務づけられている書面の一例=京都市伏見区

 では、ガソリンの携行缶での販売を免許制にすればどうだろうか?

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