常勝軍団がクラブの土台一新~2カ月で2億4千万円集めアカデミー専用フィールド実現
2021年12月31日
12月25日、「鹿島アントラーズ アカデミーフィールド」の竣工式が鹿嶋市で行われた。今年、クラブ創立30年を迎え、「クラウドファンディング(CF)」という新しい資金調達方法でアカデミー専用の、耐久性や安全性を維持する人工芝フィールドを完成。25日、フィールド横に設置された神事会場には、アントラーズの小泉文明社長、アカデミーの柳沢敦・ユース監督、小笠原満男テクニカルアドバイザー、中田浩二CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)らOB、鹿嶋市・錦織孝一(にしきおり)市長、支援者たらが揃い、厳かな竣工式が進行した。
10月1日、クラブ創設30年に向かって鹿島は様々なプロジェクトを立ち上げ、その1つが「アカデミーの未来をみんなで」と銘打ったこの企画。サッカークラブはそれぞれが各年代での育成組織「アカデミー」を保有している。
地元クラブで幼少期から組織的な強化を行うシステムで、鹿島では茨城県内の各エリア、各年代を合わせて約2600人が所属する。将来、アカデミーからトップチームに何人の選手を送れるかどうかが、クラブの総力、底力を示す指標ともなる。
1993年のプロリーグ発足を前に、鹿島は前身の住金鹿島時代に、世界的なスター選手、ジーコをブラジルから招へいし、さらに日本サッカー界にはほとんどなかった「専用クラブハウス」や、何面もの天然芝のグランドを備えた最高の環境をも誇った。しかし年月を経て、当然ながら老朽化に直面した。
今季でクラブのテクニカルディレクターを退任予定のジーコ氏も、老朽化した施設の新・改築のなかでアカデミーを重視し、「積極的に投資をしていかなくては、クラブの未来はなくなる」と提言。しかしコロナ禍によって資金調達が困難な状況にあった。
Jリーグ発足以来、リーグ制覇を始め、天皇杯、カップ戦、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)で20冠を達成してきた強豪も、ここ3季は無冠に。しかし30年で、未来への投資として新たな仕組みで高額の資金調達で得た施設は、クラブが総力戦で手にした「タイトル」とも評価できる。
アカデミー施設の資金調達は「ふるさと納税型」でのCFで、集まった資金を土地の所有者である鹿嶋市がアントラーズに寄付する形となる。ふるさと納税と同じように税制での優遇措置が取られ、寄付者は鹿嶋市在住者以外にも多かった。
Jクラブでは、G大阪のホームスタジアム「パナソニックスタジアム」が募金団体を作り、そこに個人、企業からの寄付を募った。3年間で138億円の寄付を集め、完成したスタジアムを吹田市に寄贈した。
12月上旬には、福島県いわき市が鹿島と同じ「ふるさと納税型」で、サッカーJFLの「いわきFC」を支援する方針を示している。
スポーツとCFの関係が深まるなか、鹿島の特徴は、3億円と定めた目標額の大きさにある。
19年に経営権譲渡がされた「メルカリ」から出向し、鹿島で経営戦略チームのマネジャーとして今回のプロジェクトに関わった金子有輔氏は振り返る。
「CFの目標額は3億円に設定しました。スポーツで行われた過去の例ではかなり大きな数字ですが、これを目標とするのがアントラーズなんだと話し合った。結果的にはその高い目標が、クラブをひとつにしたと思います」
柳沢監督らOBが前面に立って支援を呼びかけたほか、現役選手、グッズ販売の関係者や法人の支援企業、地域のサポーターたち、クラブ一丸となって達成を目指した。金子氏も地元出身者で、「改めて地域貢献のテーマについても考えられた」とも話す。
地元に根差した育成システムは、トップチームの成績と並ぶクラブ強化の2本柱だ。高額な移籍金を支払って、選手を獲得するリスクより、トップチームで活躍できる未来のプロ選手たちを自分たちの手で育てられればクラブ経営の安定、真の地域貢献につながって行く。一方、アカデミー出身選手をいつ、何人トップチームに送り込めるか、育成は見通しが立たない困難な事業でもある。
竣工式を終えたユースの柳沢監督は、「支援者の皆さんに本当に感謝しています。それと同時に、とても重い責任、プレッシャーも感じている。トップチームで主役になる、未来のアントラーズの選手を輩出する聖地にしたい」と、緊張した面持ちで答えた。
小泉社長によれば、人工芝のフィールドを地域イベントの交流拠点にするなど新たな活用方法も今後検討される予定だ。
Jリーグ発足時、鹿島は10番目に滑り込んだクラブだった。
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