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「表現の自由」は自民党の政治家に守ってもらうものではない

赤木智弘 フリーライター

 ロシアで人権団体「メモリアル」への解散命令が最高裁から出された。

 「メモリアル」は旧ソ連のスターリン政権によって粛清された犠牲者の名誉回復などに取り組んでいた団体だそうだが、「外国の代理人(エージェント)」と認定され、義務づけられた当局への財政報告を怠ったという理由で今回の判決になったという。

メモリアルの解散を命じる判決を受け、ロシア最高裁判所の前でメディアに囲まれる担当弁護士(右)=2021年12月28日、モスクワ「メモリアル」の解散を命じる判決を受け、ロシア最高裁判所の前でメディアに囲まれる担当弁護士(右)=2021年12月28日、モスクワ

 本来、自分の国を愛するためには、自分の国の過去に真正面から向き合う必要がある。メモリアルのような団体は国が過去の歴史を直視し、新しい未来を歩むためには必要な存在である。

 そうした団体を法をもって解散させた。これは、正しく歴史を伝えようとする団体を、国の過去を美化しようとするロシア政府が潰したということだ。歴史修正主義による歴史に対する侮辱であり、何より表現の自由を潰す大問題なのである。

 こうした動きはあくまでもロシアという特別な国の話であって、日本にとっては対岸の火事という見方もあるだろう。しかし僕はそうは考えない。理由は自民党の憲法改正草案の存在だ。

「表現の自由」に対する態度の違い

Black Salmon/Shutterstock.comBlack Salmon/Shutterstock.com

 現在、自民党は憲法改正を目指している。2012年に作られた「日本国憲法改正草案」では、「表現の自由」を規定した第21条に、現行法とほぼ同じ「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は保障する」とある。

 だが、2項として、

 「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」

 と付け加えられている。

 ロシアはメモリアルに対して「外国の代理人」というレッテルを貼り、法をもって過剰な義務を押しつけることにより、団体を解散させた。つまり、「公益及び公の秩序を害することを目的にした活動を行う団体」と見なして解散させたと言っていいだろう。 

 自民党並びに改憲勢力が政権与党を担う日本において、今回のロシアの事態は、決して対岸の火事などではない。憲法が改正されてしまえば、日本でも同じ状況になり得ることは十分に考えられるのである。

 昨今、世界的に表現の自由がないがしろにされつつある。

 中国共産党による支配が強まった香港でも民主派とみられるメディアへの摘発などが相次ぎ、自由な報道が立ち行かなくなっている。そして僕は日本もいずれ同じ道を行くと考えており、ロシアの一件は改めて「表現の自由を守る意味」を考えるのにちょうどいい題材である。

 にもかかわらず、このニュースは日本ではさらっと流されてしまい、危機を感じている人はあまり多くなさそうだ。

 一方で「表現の自由を守れ!」と主張している人は最近、「温泉むすめ(萌え興しキャラ)を叩いたフェミが、熱海温泉に行った! 厚顔無恥だ!!」と騒いだり、日本最大の同人誌即売会のコミックマーケットで献血を行っている事を指して「献血を募る場所は考えて欲しい。輸血が必要な人は血を選べない」というツイートをした自称フェミニストを批判したりしている。

 前者の「フェミ」は著書などもある社会活動家なので、その行為を批判する意味はあるとは思う(その批判の内容が正しいとは一切思わないが)。だが、後者に関しては

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