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大阪クリニック放火事件で実名発表した大阪府警~匿名化の流れに変化か?

個人情報保護法で顕著になった匿名化だが……。実名発表と実名報道を考える

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

京アニ放火事件での匿名発表

 2019年に京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」第一スタジオで、職業不詳の青葉真司容疑者がガソリンをまいて放火、勤務していた36人が死亡した。社会に大きな衝撃を与える事件で、犠牲者を実名で報じるのか匿名なのか、議論を呼ぶことにもなった。

 京都府警は当初、犠牲者の身元が分かり次第、実名発表する方針だった。しかし、京アニ側が公表を控えるよう文書で要請。遺族の了承を得られ、葬儀も終わった10人の実名を事件から約2週間後に発表した。全員の実名が発表されたのは、40日後のことだった。

 京都府警によると、犠牲者の半数以上の遺族が実名発表を拒否したという。それでも公表に踏み切った理由について、西山亮二捜査一課長(当時)は「事件の重大性に加え、社会的関心が非常に高く公益性があるため、公表した方がいいと判断した」と述べ、「匿名にするといろんな憶測が広がり、間違ったプロフィルも流れる。それで亡くなった方やご遺族の名誉が傷つけられる」とも語った。

 新聞各紙は府警の発表を受け、全犠牲者の名前を報道した。

 毎日新聞は「重要な出来事を正確な事実に基づき広く伝えることが報道の使命であり、当事者の氏名は事実の根幹であることから、毎日新聞は事件や事故の被害者についても実名での報道を原則としている」(2019年8月28日朝刊)と、実名報道の考え方を示した。

 朝日新聞は大阪社会部長の署名記事を掲載。「亡くなった方々に多くの人々が思いをはせ、身をもって事件を受け止められるように報道する。それが、事件に巻き込まれた方々の支援や、再発防止のあり方を社会全体で考えることにつながるのではないか」「失われた命の重みと尊さは『Aさん』という匿名ではなく、実名だからこそ現実感を持って伝えられる」(同・9月10日朝刊)と説明した。

  ただ、警察が犠牲者を実名発表すると、遺族らに取材が殺到、大混乱になり関係者を傷つけるということがしばしばあった。実名報道に強い抵抗感を抱く人たちがいることも事実だ。

拡大多くの人が亡くなった京都アニメーション第1スタジオの建物の前で、手を合わせたり花を供えたりする人たち=2019年7月19日、京都市伏見区

障害者施設事件での徹底した匿名化

 2016年に相模原市の重度障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所する障害者19人が、「障害者なんていなくなればいい」という同施設の元職員、植松聖容疑者(26)に次々と刺殺された。神奈川県警は遺族の強い要望などで実名発表していない。

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筆者

徳山喜雄

徳山喜雄(とくやま・よしお) ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

1958年大阪生まれ、関西大学法学部卒業。84年朝日新聞入社。写真部次長、アエラ・フォト・ディレクター、ジャーナリスト学校主任研究員などを経て、2016年に退社。新聞社時代は、ベルリンの壁崩壊など一連の東欧革命やソ連邦解体、中国、北朝鮮など共産圏の取材が多かった。著書に『新聞の嘘を見抜く』(平凡社)、『「朝日新聞」問題』『安倍官邸と新聞』(いずれも集英社)、『原爆と写真』(御茶の水書房)、共著に『新聞と戦争』(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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