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ヘイトクライムの深い傷、放火されたウトロ地区を歩く

在日コリアンの暮らす京都府宇治市、平和祈念館の資料も焼失

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

 在日コリアンの関連施設を攻撃する「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」とみられる事件が相次いでいる。その中の一つ、放火事件が起きた京都府宇治市のウトロ地区を小説家の中沢けいさんが歩いた。

憎悪をあおる不穏な雰囲気が広がる

 京都府宇治市のウトロで火災が発生したのは2021年8月30日午後4時頃のことだ。

 当初は漏電による出火と見られた火災が放火であることが分かったのは、火災発生からおよそ3ヵ月後のことだ。12月6日、22歳の男性が逮捕された。

 この男性はウトロ放火事件以前に、7月、名古屋の在日本大韓民国民団(民団)の建物に放火した容疑でも逮捕・起訴されている。また7月にあった奈良の民団支部の不審火への関わりも疑われていると聞く。このような連続的な放火容疑の取り調べから、在日韓国人・朝鮮人集住地区のウトロでの火災もまた放火であることが明らかになった。男性は連続放火の動機を「韓国が嫌いだから」と供述しているという報道もある。

拡大火の手が上がる火災現場(左)と消火活動=2021年8月30日、京都府宇治市伊勢田町ウトロ

 この事件はヘイトクライムであることは間違いないと私は考える。

 歴史的に形成された差別構造を利用し憎悪を煽る言動を繰り返すヘイトスピーチ、同じ構造から生まれてくる犯罪をヘイトクライムと言う。

 私が最初にヘイトスピーチデモに出会ったのは2009年3月大阪御堂筋であった。200人から300人規模のデモ隊が日の丸を掲げながら「韓国人を叩き出せ」などのコールを繰り返していた。日の丸が林立している様子などからあきらかに右翼系のデモと分かった。その当時はまだヘイトスピーチと言う言葉は知らなかったが、奇異な光景として印象に残った。

 ヘイトスピーチという単語を知ったのは、御堂筋で最初にデモを見かけてから3年後の2012年だ。東京の新大久保、大阪の鶴橋などで、差別的言動で憎悪を煽るデモや街宣が繰り返されていた。

 「叩き出せ」「殺せ」「皆殺しにしろ」とどぎつい言動は「言っているだけだから」と軽く見られる傾向があった。いつの世の中にもおかしな人はいるものだと眉を顰(しか)めることはあっても、相手にするほうがばかばかしいとされることも珍しくはなかった。これがヘイトスピーチであり、国によってはスピーチそのものが犯罪とされる場合もあると広く知られるようになったのは2013年以降であり、2016年にはヘイトスピーチ解消法が施行された。

 街頭や路上での派手なヘイトスピーチ街宣やデモは、この法律の施行以降、かなり減ったと感じている。が、どうもなにか不穏な雰囲気は、以前よりも広がっているのではないかと首をひねることも多くなった。

 そこに起きたのがウトロの放火事件だ。とりあえずウトロの火災現場を自分の目で見てみたかった。

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筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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