コロナで増えるネットの誹謗中傷 「炎上」あおるメディアにも責任 対応策は…
ネットでの誹謗中傷、いじめ、嫌がらせはまさに「デジタル暴力」。撲滅は可能か
山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授
インターネット上に広がる誹謗中傷やいじめ、デマ、差別、嘲笑……。ネット社会の広がり、IT技術の発展、ソーシャルメディアの普及などに伴う「暴力」ともいえる状況が近年、ますます深刻になっています。「論座」のコメント欄にも誹謗中傷やヘイトに類することが書き込まれる例が少なくありません。
そこで「論座」では、こうした事態について多角的に論じることを通じ、コメント欄を改革する方法を探ることにしました。筆者・読者にとって意義があり、議論の輪が広がっていく、そんなコメント欄ができないか、皆さんとともに考えていきたいと思います。
「論座」は、これまでもネットの誹謗中傷やコメント欄などに関する記事を公開してきましたが、今後も積極的に公開していきます。今回は、ネットメディアの問題に詳しい国際グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんに、ネット上の誹謗中傷や炎上の現状、世界や日本の対応、コメント欄改革のアイデアなどについてお聞きました。コメント欄にご意見をお寄せいただければ幸いです。(聞き手 論座編集部・吉田貴文)
コメント欄で誹謗中傷を書き込む人と相性抜群、ネットメディアの構造的矛盾
「コメント欄が誹謗中傷等で地獄化する問題」について対抗策を6つ考えた
ニュースサイトや言論サイトのコメント欄は有害無益である
アルゴリズム社会の〝統治者〟 プラットフォーム監視は責務

ネット上の「炎上」、誹謗中傷などについて語る山口真一・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授(撮影・吉田貴文)
コロナで増加したネットの「炎上」
――ツイッターなどのSNSは、誰もが気軽に発信できるツールとして、人々の暮らしを豊かにするはずのものでした。また、ネットサイトの運営者としては、サイトに設けられたコメント欄を、一般の人の意見を知る場として建設的な議論に役立てたいと考えていました。ところが現実には、誹謗中傷や差別、いじめ、悪意に満ちた言説、個人を陥れるような言説が目立ち、社会問題化しています。こうした状況についてどう見ますか。
山口 ネット上の誹謗中傷やいじめは確実に増えています。たとえば、ある個人や企業の行為・発言・書き込みに対し、ネット上で多数の批判や誹謗中傷がおこなわれる「炎上」は、デジタル・クライシス総合研究所の調査によると2020年に約1400件発生しています。1年は365日なので一日あたり4件弱が発生している計算です。今日もどこかで誰かが炎上しているわけです。
2021年の件数は、私が耳にしているところでは、1766件に増えました。2019年が約1200件だったので、毎年数百件ずつ増えています。気になるのは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、急増している点です。2020年4月に最初の緊急事態宣言が出た時のネットの炎上件数が、前年同月比の3.4倍にのぼっているのは象徴的です。
PVのためにあおるオンラインメディア
――コロナ感染が影響していると。
山口 コロナの蔓延で社会不安が増したこと、SNSの利用時間増が炎上を増やしているのは間違いないと考えています。もうひとつの要因はメディアですね。
――メディアですか?
山口 データによると、2019年には「炎上」がメディアに登場する頻度は約60%でした。それが2020年には75%、2021年には90%以上になりました。ほとんどの「炎上」がメディアで報道されています。ページビュー(PV)が稼げるから、デジタルメディアがこぞって炎上を取り上げた。背景にあるのは、いわゆる「アテンション・エコノミー」です。
――アテンション・エコノミー。情報の優劣よりも、注目を集めることが重要視され、それが経済的な価値を持つということですね。
山口 そうです。PVを稼ぐため、興味を引こうという競争が過熱し、「炎上」を取り上げるメディアが増えました。ちょっと批判されたものも「炎上」という風に取り上げることで、本当の「炎上」になってしまう。オンラインのメディアが中心になってあおっていますが、時にマスメディアが“拡声器”になることもあります。

T-K-M/上shuttersto.com