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コロナで増えるネットの誹謗中傷 「炎上」あおるメディアにも責任 対応策は…

ネットでの誹謗中傷、いじめ、嫌がらせはまさに「デジタル暴力」。撲滅は可能か

山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授

四六時中、批判にさらされることのつらさ

拡大山口真一さん
――ネット上で多数の批判や誹謗中傷を受けるとダメージは大きいですね。

山口 オンライン上での誹謗中傷はほぼ毎日起こっていて、総務省の違法・有害情報センターに寄せられる相談件数も年間約5000件で高止まりしています。問題のひとつに「ネットいじめ」がありますが、これの一番怖いところは、学校や職場など「いじめの現場」から離れていても、ネット上では24時間、いじめられるということです。

 どこにいてもネットで四六時中、批判にさらされるのは、相当にきつい。昨年(2021年)春に、北海道旭川市で女子中学生が凍死してしまったケースも、「ネットいじめ」が影響していると言われています。2020年5月には、ネット上の誹謗中傷で女子プロレスラーの木村花さんが亡くなっています。

 私の分析では、炎上1件につき誹謗中傷などネガティブな投稿をしている人の数は、中央値をとって250人ぐらい、平均2000人ぐらいと推計されました。ネットユーザー全体からするとごく少数(中央値で約0.00025%)ですが、だからといって、気にしなくてもいいという話ではない。企業ならまだしも、一個人がたとえば200人から常に誹謗中傷されたら、命を絶つのに十分なつらさだと思います。

ネット上の誹謗中傷は明らかな暴力

――ネット上で誹謗中傷は明らかに悪質な暴力ですね。そこで対象になるのは弱い立場の人たち、たとえば女性、少数者などが多いようです。2020年の国連の調査によると、女性や若者、特にミレニアル世代、Z世代がターゲットになりやすいという傾向が明らかだといいます。国連人口基金は昨年実施した「#STOPデジタル暴力キャンペーン」で、ネット上での誹謗中傷やいじめ、嫌がらせなどを「デジタル暴力」と名付け、問題提起をしています。

山口 「デジタル暴力」という分かりやすい言葉で表現するのはいいと思います。ネット上であっても、他人を傷つける行為は「暴力」なんだと。議論の余地なく悪いことだと人々に印象づける効果は強いと思いますね。

※デジタル暴力

 国連人口基金(UNFPA)は昨年11月から12月にかけて実施した「#STOPデジタル暴力キャンペーン」で、ネット上の誹謗中傷やいじめ、嫌がらせなどを「デジタル暴力」と名付けました。

拡大国連人口基金駐日事務所のホームページから
 UNFPA駐日事務所によると、UNFPAはオンライン上のジェンダーに基づく暴力を包括的に表す用語としては「Technology-facilitated Gender-based Violence(テクノロジーによって促進されたジェンダーに基づく暴力)」を用いますが、日本では普及しにくい表現であると考え、有識者、関係省庁や広告代理店などの意見を参考に、日本国内でのキャンペーンには「デジタル暴力」を用いることにしました。

 デジタル暴力には様々な形態があります。ネット上で女性を脅したり、ストーキングをしたり、許可なく女性や少女の顔写真と性を強調した別人の体を組み合わせ、何年にもわたってネットやSNS上で広めるたりすることもあります。政治家やジャーナリスト、女性の権利を守る活動家など、公的な役割を担う女性を標的として、オンライン上でヘイトスピーチや悪質な誹謗中傷などを行い、長期にわたる精神的な苦痛を与えたり、自死に追い込んだりすることもあります。UNFPAはキャンペーン特設ページ(The Virtual is Real)で以下のような例を挙げています。

・ドキシング(doxxing):不当に入手した他人の実名や住所、電話番号、メールアドレス、家族に関する情報などをネットに公開すること。恨みをもって、嫌がらせ目的で行われることが多く「さらし」とも呼ばれます。
・サイバーモブ(cybermob):大勢の人が特定の個人をターゲットにし、オンライン上で攻撃、脅迫、辱めること。
・画像を使った嫌がらせ(image-based abuse):他人の性的な画像を用いて、オンライン上で攻撃、嫌がらせを行ったり、辱めたりすること。同意を得ずにパートナーの性的な画像を送る行為や、子どもへの性的な虐待を写した画像を送る行為などが挙げられます。
・なりすまし(online impersonation):悪質な目的のために偽のプロフィールを作成したり、本人であるかのように詐称したりして、評判を傷つけたり、安全を脅かしたりすること。
・セクストーション(sextortion):オンライン上の脅迫の一つ。金銭、性行為、性的な画像の送付を要求し、応じなければプライベートな画像や個人情報などを公開すると脅すこと。
・サイバーストーキング(cyberstalking):ソーシャルメディアなどで被害者を標的に、攻撃や中傷を執拗に行ったり脅迫メッセージを送ったりすることで、執拗につきまとうストーカー行為。ネットストーカーとも呼ばれている。
・ネットいじめ(cyberbullying):オンライン上の嫌がらせの形態のひとつ。IT技術を用いて被害者に継続的かつ意図的なダメージを与えるもの。
・オンラインハラスメント(online harassment):屈辱的、攻撃的、侮蔑的な言葉や画像を送り、継続的に他人を脅し、悩ませ、怯えさせ、苦しめること。性的な内容を含む場合は、オンライン・セクシュアルハラスメントという。
・リベンジポルノ(revenge porn):画像を使った嫌がらせの一つ。性的な画像を本人の了承なく他者と共有すること。リベンジポルノという言葉は広く使われているが、被害者が画像の共有に同意した、または、被害者が報復されるほど悪いことをした、と捉えられる可能性があるので好ましいとは言えない。
・シャローフェイク(shallowfake):他人の体に被害者の顔を組み合わせる等、編集ソフトで加工された画像。AIが関わる巧妙なものは、ディープフェイクと呼ばれる。

 コロナ禍で、特に若者がインターネットやSNSに触れる時間が増えたことで、デジタル暴力の増加に拍車がかかっています。また、国境や制度を越えて広がるデジタル暴力を食い止めるには、規制当局、テクノロジー企業、デジタル活動家、女性の権利支援者の間で、新しい考え方と新しいかたちの協力が必要です。

 この対策としてUNFPAでは、女性のからだの権利侵害を著作権(copyright©)侵害と同様に深刻なことだと認識してもらうために、「bodyright」、つまり“からだのコピーライト”というコンセプトを提唱してキャンペーンを展開し(参照)、デジタルサービスを提供する会社やプラットフォーマー、さらに若い世代の問題意識を高め、課題解決に取り組む環境を作る取り組みも始めました。

 今後の取り組みのひとつとしてUNFPAは専門家会議(Expert roundtables)の開催を予定しています。企業、各国政府、ジェンダーに基づく暴力に対応する関係者、研究者、活動家らを招き、デジタル暴力に関するデータ収集やリサーチ、対策、予防、既存の法制度や政策の見直し、成功事例、今後の対策などについて議論する場を設けることを目的としています。

 UNFPAは、このような活動を通して、各国のデジタル暴力に関する法律が整備され、プラットフォーマーやメディアなどが、デジタル暴力の実態を把握し、中長期的な対策を講じることを促す取り組みを継続していきます。

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筆者

山口真一

山口真一(やまぐち・しんいち) 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授

1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論、情報社会のビジネス等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞(2回)、電気通信普及財団賞、紀伊國屋じんぶん大賞を受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に、東京大学客員連携研究員、早稲田大学兼任講師、株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト、日経新聞Think!エキスパート、日本リスクコミュニケーション協会理事、シエンプレ株式会社顧問、総務省・厚労省の検討会委員などを務める。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです