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[61]生活保護の扶養照会を「必要な手続き」という岸田首相~これでは自治体の悪質運用は改まらぬ

国の改善通知後も利用を妨げる自治体相次ぐ。抜本見直しの議論に進め

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

利用妨げる扶養照会―岸田首相は「必要な手続き」と国会で答弁

 民間団体に支援を求めて集まる人は増え続けるのに、生活保護の制度利用は進まないという状況は、コロナ禍の初期からずっと続いている。

拡大「年越し大人食堂2022」で配布されたお弁当=山﨑まどかさん提供
 「年越し大人食堂」の現場には各党の国会議員がボランティアとして参加してくれたが、そのうちのお一人、福島みずほ参議院議員(社民党)は1月21日、参議院本会議で岸田文雄首相に対する代表質問に立ち、現在の生活保護制度は「憲法25条が規定する『健康で文化的な最低限度の生活』を保障する役割を果たしていません」と厳しく批判した。

 福島議員は、生活保護の申請時や利用中に福祉事務所が親族に援助の可否を問い合わせる扶養照会が制度利用のハードルになっているとして、岸田首相に対して「生活保護の現場で扶養照会をやめるよう徹底すべきではないですか」と質問した。

「弾力的運用の周知徹底に努める」とも発言

 これに対して岸田首相は、「扶養義務者の扶養が保護に優先して行われることは生活保護法に明記された基本原理であり、扶養照会は必要な手続きではあります。他方、自治体に対し要保護者が扶養照会を拒んでいる場合には、その理由について特に丁寧に聞き取ることを求めており、こうした扶養照会の弾力的運用について周知徹底に努めてまいります」と答弁した。

拡大参院本会議で社民党の福島瑞穂党首の代表質問に答弁する岸田文雄首相=2022年1月21日

見直し求めるネット署名反響、厚労省が運用変更を自治体に通知

 岸田首相が言う「扶養照会の弾力的運用」とは、昨年春に出された厚生労働省通知による運用変更のことを指している。

 親族への照会が制度利用を阻んでいる状況を改善するため、昨年1月、私たち支援関係者は、扶養照会の運用の抜本的見直しを求めるネット署名を開始した。「困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!」と題したネット署名は、大きな反響を呼び、6万1千人以上が賛同した。このキャンペーンは、その年に最も社会に影響を与えたネット署名活動の一つとして、署名サイトであるChange.orgの「チェンジメーカー・アワード2021大賞」に選出された。

拡大扶養照会の運用の抜本的見直しを求める署名と、国が自治体に出す通知の改正などについての要望書を厚生労働相あてに提出した後、会見する筆者ら=2021年2月8日、東京都千代田区

照会は「本人が拒めば止められる」ことが明確になった

 こうした声を踏まえ、厚生労働省は昨年3月末、扶養照会の範囲を「扶養義務の履行が期待できる」と判断される親族に限定すること、生活保護の申請者が扶養照会を拒んだ場合は、その理由について「特に丁寧に聞き取りを行い」、照会をしなくてもよい場合にあたるかどうかを検討することを自治体に求める通知を発出した。

 本人に「聞き取り」をおこなった結果、親族との関係が良好でなく援助が見込めないと判明した場合や、照会をおこなうことが適切でないと判断した場合は、親族に連絡をしない、ということが明確になったのである。この運用変更によって、扶養照会は本人が拒めば実質的に止めることができるようになった。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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