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「平昌超え」狙う日本選手団――北京五輪が2月4日開幕

ゼロコロナ政策と外交的ボイコットを抱え、北京は夏冬五輪を開催する初の都市に

増島みどり スポーツライター

海外冬季五輪で最多の262人派遣、前回13個を超すメダル目指す

 北京冬季五輪に出場する日本選手団の多くが1月30日、現地に出発した。前日の29日、役員コーチを含み262人と、海外での冬季五輪としては最多の人数となった選手団の結団式が、都内ホテルで行われた。

北京五輪の日本選手団結団式で、カメラに向けてポーズをとる郷亜里砂旗手(左)と高木美帆主将=2022年1月29日、東京都港区
 新型コロナウイルスオミクロン株の急激な感染拡大を受けて、人数を急きょ大幅に制限したため、代表選手で出席したのは、主将を務める高木美帆(27=日体大職)、旗手の郷亜里砂(34=イヨテツク、ともに女子スピードスケート)の2人。高木は、「冬季競技の活躍が日本中へ勇気と明るさを届け、社会の未来への希望となれるよう全力を尽くすことを誓います」と、力強く宣言した。

 高木は今大会、500㍍ほか5種目の出場権を手にしており、「バンクーバー五輪(10年)に出場して12年で、こうした大役を頂いて嬉しかった」と、主将を受諾。前回平昌五輪では小平奈緒(相澤病院)が、「(五輪選手団の)主将は、金メダルを取れない」という長年のジンクスを打破して、500㍍の金メダリストに輝いているだけに、頼もしい存在だ。

 伊東秀仁団長は記者会見で「(冬季大会過去最多の13個だった)平昌五輪を超えるぐらいのメダルを取りたい」と、目標を示した。

北京五輪の選手村に到着した日本選手団。五輪初出場の選手たちが記念撮影をしていた=2022年1月30日

5大会連続の渡部暁斗、第一声は「歳を取ったなぁ」

 郷と共に旗手に選ばれたノルディック複合の渡部暁斗(33=北野建設)は、直接北京入りするため結団式は欠席したが、1月21日、遠征先のオーストリアから会見に臨んだ。

オンラインで取材に応じる渡部暁斗=2022年1月21日
 「先ずは5大会連続出場のご感想は?」と聞かれると、「歳を取ったなぁと思います」と、笑い出した。初出場した06年トリノ五輪はまだ白馬高校(長野県)在学中で17歳。ラージヒル18位で五輪にデビューを果たしてから重ねたキャリアを「長かったですね」ではなく、「歳を取ったなぁ」と笑顔で表現する様子に充実感が伺える。

 10年バンクーバーは9位に順位をあげ、この後14年ソチ五輪まで、W杯初優勝や世界選手権の4位などをバネに実力者として確固たる地位を築く。ソチでは前半のジャンプで2位につけ、後半のクロスカントリーで金メダルのフレンツェル(ドイツ)と4.2秒差の激闘で、ノルディック複合で個人として20年ぶりとなる銀メダルを手にした。

 18年平昌五輪も同種目で銀メダルを獲得。欧州が主流の競技で、2大会連続銀メダル獲得は十分に称賛される。しかし今大会を前に、「金メダルを取りたい気持ちは常に強く持っていたし、金メダルしか考えていない。そこに向かって全力を尽くしていきたい」と、金メダルへの強い思いを繰り返した。

ソチ五輪のノルディック複合個人ノーマルヒルの距離で、優勝したエリック・フレンツェル(右)と競り合う渡部暁斗=2014年2月12日

集大成の場で狙う金メダル―「競技をもっとメジャーにしたい」

 複合では、年間を通じた実力を示す「W杯総合王者」に特別な敬意が払われる。17~18年シーズンにこれを果たし「キング・オブ・スキー」の称号を手に。それでも「競技をもっとメジャーにしたい」と願い続けるベテランは、五輪で多くの人に複合を知ってもらう、そこに金メダルの価値を見出す。

 今季W杯最高は6位だが「色々なアクシデントはありますが、まぁそこはベテランの経験で……」と、メダルを狙うのは最後と決めた集大成の場に、肩の力を抜いて臨む。

北京五輪のコースの感触を練習で確かめる日本人選手ら。奥に国家スキージャンプセンターが見える=2022年1月31日、国家クロスカントリーセンター

北京で金メダルが期待される平野歩夢。東京五輪のスケートボード挑戦を終え半年足らずの1月にスノーボードのW杯で4季ぶりに優勝した。写真は昨年12月の米コロラドの大会での演技

平野歩夢が一度も「金メダル」と言わなかった理由

 渡部と同じにソチ、平昌で2大会連続銀メダルを獲得したスノーボード、ハーフパイプの平野歩夢(23=TOKIOインカラミ)は、合宿先のアメリカからオンライン会見に出席した。

 冒頭、取材する記者団を代表した質問者が、社名と名前を伝えて挨拶をすると、「はい、平野歩夢です」と会釈し丁寧に返したシーンがあった。落ち着いた様子に、自信、余裕が漂うように見えた。

 半年前、21年東京五輪ではスケートボードとの「二刀流」に挑戦(14位)。日本では、橋本聖子、関ナツエ、大菅小百合=以上スピードスケートと自転車=、男子は青戸慎司=陸上短距離とボブスレー=に次いで、史上5人目の夏冬五輪出場を果たした。

 金メダル、と何度も口にした渡部と違い、平野は会見中、何度質問を受けても「金メダル」と言わなかったのが印象的だった。

北京五輪会場の一つ雲頂スノーパーク。右がスノーボードのスロープスタイル、左がハーフパイプ用ゲレンデ=2022年1月15日

「自分にしかない表現を見せられたら」

 「この4年間通して、自分が調整してきたことを、全て出し切った上で、自分にしかない表現を見せられたらと思っている。それがいい結果につながればなと思う」

 自分にしかない表現、とは、現時点では平野だけが試合で成功させている高難度の技、「トリプルコーク1440」(斜め軸に縦3回横4回転)を指すのか、それとも、夏冬出場をわずか半年で実現させたキャリアなのか、会見だけでは分からない。ただ「自分にしかない表現」とは、芸術家のような言葉の選び方で、「NO1」は当然ながら、そこへのアプローチもまた「オンリー1」であろうとする挑戦心の表れなのだろうか。

「五輪はスノーボードの枠とはまた別の種類。影響力の大きな舞台」

平昌五輪のスノーボード・男子ハーフパイプで優勝したショーン・ホワイト(右)と健闘をたたえ合う平野歩夢=2018年2月14日
 平昌では、世界的なスター、ショーン・ホワイト(米国)との伝説的な激闘を繰り広げた。彼等の主戦場となる競技会は多くあるが、「五輪は限られた人達しか出られない、スノーボードという枠とはまた別の種類なのかと思っている。4年に一度という特別な期間の中で、選ばれた人達だけの真剣勝負。スノーボードにとって影響力の大きな舞台」と、五輪の価値を明確に話す。

 「(今大会で引退を表明したショーンホワイトと)またあの舞台でやり合えるのは楽しみ」と、最高峰での戦いを「やり合う」と独特な感性で表現した。

五輪関係者と外部との接触を断つ「バブル」の外から写真を撮る人たち=2022年1月24日、北京市内

北京五輪の開会式・閉会式の会場となる国家体育場「鳥の巣」=2022年1月3日

きょうだい代表の五輪、同一個人種目で初の同時表彰台なるか

 15歳で日本の冬季五輪史上最年少のメダリストになった平野には、今大会新たなモチベーションも生まれた。15歳の兄をテレビで応援していたという弟の海祝(かいしゅう、19=日大)も出場。オンライン会見といったなかば公の場でも、歩夢の話を聞かれると、いつも「兄ちゃんは……」と答える屈託のない明るさは、兄にもきっと、大きな力なのだろう。

Xゲームの表彰式でメダルを掲げる平野歩夢(左)と海祝(右)=2022年1月21日、米コロラド州アスペン
 「(弟に対し)出場で満足せず、自分らしい滑りを五輪で、全力でやって欲しい」と期待を寄せる兄の言葉に、弟は「兄ちゃんのメダルを見てからずっと夢の舞台だった。(スノボを知っている人も知らない人にも)一目ですごい!って思ってもらえるぐらい高く跳びたい」と、得意のエアで勢いに乗る戦略だ。

 1月21日には、トッププロが集結する「Xゲーム」(米コロラド州)で、歩夢が2位、海祝は3位と共に表彰台に。五輪で兄弟、姉妹が同一個人種目で同時に表彰台に立てば、日本の冬季五輪史上初の快挙となる。

平野、冨田、志賀、渡部、小林、高木、吉田、床、菊池

アイスホッケー女子日本代表の攻守の要、姉の志賀葵(左から2人目)と妹の紅音(同3人目)両選手=2021年12月29日
 今大会には、初の兄弟出場となる平野兄弟以外にも、
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